研修中のスマホ注意したら、新人が「パワハラですよね?」と反発してきた

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   「入った会社にブラックの兆しが見えたら、すぐに退散した方がいい」――。就職したばかりの新人に、こんな助言をする大人たちが増えている。ブラック会社を生き延びさせないためにはよい考え方だが、神経質になりすぎると本末転倒の結果になりかねない。

   ある会社では、研修に出席した新人が、部長の指示に従わなかったことをとがめられた。すると新人が人事に「あれはパワハラではないか」と訴えてきたという。同席した人事の目にはそう映らなかったが、問題の性格から慎重に扱わざるを得ず、頭を抱えている。

「さっき電源を切れと言ったはず」と人前で叱責

――ソフト開発会社の人事です。今年は新卒を10人採用しました。入社式の直後から、会社の組織や仕事上の心構えについて、配属前の全社研修を行っています。

   ところが昨日、研修中にちょっとした事件が起こりました。開発部長の講義中、30分ほどして新人のA君のスマートフォンが鳴ったのです。それに気づいた部長は「研修中は電源を切っておくように」と注意しました。

   ところがしばらくして、部長が突然大きな声をあげました。

「さっき電源を切れといったはずだ。これが商談中だったら、おおごとだ。当たり前のことを守れないヤツは、客先に出せないぞ!」

   なんと、先ほど注意されたA君が、再びスマホをいじっていたのだそうです。それから部長は、予定されていた講義内容を変更し、残りの10分間で、上司の命令には確実に従うべきことや、客先でのマナーに注意することなどについて、A君のケースに絡めながら説明をしました。

   研修が終わると、A君が険しい表情でやってきました。

「あのう、さっきの部長がやったことって、明らかにパワーハラスメントってやつですよね。いくら悪いことをしたからって、人前でネチネチ批判するなんて…。他の同期も『あれはおかしいよ』と言ってますよ」

   同席していた私からみると、パワハラと思われるところがなかったので、ちょっと衝撃を受けました。しかし、社員から申し立てがあったからには、慎重に対応せざるをえず…。こんな新人の言い分って、通るんでしょうか――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
業務上の適正な範囲で行われていれば問題ない

   ご相談の内容は、私はパワーハラスメントに該当しないと思います。パワハラは「職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えること」です。A君は注意によって苦痛を感じたようですが、それが業務の適正な範囲内であればパワハラにはなりません。「業務上の指導との線引きが難しい」とはよく言われますが、脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言などがありませんし、業務を外れた嫌がらせのために行われたという意図も感じられません。

   気になるのは10分間という時間と、全員の前での叱責という点でしょうか。叱責は不必要に長くしないことが賢明で、感情的に怒ったり人格批判をするのではなく、問題点を指摘し改善する行動を指示することが重要です。叱責に絡めた話をするにも、一般的な話にして他の参加者にも感想を求め、気づきを与えるやり方もあったのではないかと思います。次回からはこのような点に気をつけていただければ大丈夫でしょう。

臨床心理士・尾崎健一の視点
「価値観の多様性」知る取り組みが抑止力に

   パワハラには、大きく2つの対策が考えられます。ひとつはガイドラインを設け、やってはいけないことを列挙することです。どのような発言が脅迫となり、名誉毀損や侮辱となるかは、だいたいはっきりしています。いくらA君の行為が悪くとも、叱責の中で「俺の力で仕事をできなくしてやる」とか「親の顔が見たい」といった発言があれば一発NGでしょう。抵触した上司は、厳しく処分すべきです。

   もうひとつは、ガイドラインで割り切れない部分について社内で意見を交わすことです。すべての事例を検討できなくとも、人の価値観の多様性を知る取り組みが想像力を高め、ハラスメントの抑止力につながります。企業防衛の観点からグレー部分は厳しめに判断せざるを得ませんが、不必要な締めつけは職場を萎縮させます。先進的な会社では、職場の人間の捉え方が多様であることの認識を高めるために、複数事例について「どのように感じるか」をアンケートしたり、研修で意見を出し合ったりしています。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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