年末の朝日新聞による一連の「追い出し部屋」報道が話題となっている。会社が余剰人員を特定部署に集め、離職するよう様々な圧力をかけているという内容で、学生の就職先として人気を集める有名企業も名を連ねている。
なぜ追い出すための部屋を作るかと言えば、それはもう単純に終身雇用を維持するためである。「希望者は誰でも65歳まで職を保証される」という看板を守るためには、従業員が自発的に辞めるよう仕向けないといけないからだ。
「日本軍は負けない」という看板を守るために、ノモンハンで負けた後に将校が自殺させられていたのと同じようなものである。
政府がやめさせても企業の生命力が下がるだけ
ちなみにこの追い出し部屋的なものは別に新しいものではなく、90年代から日本企業のあちこちに存在していて、筆者自身も携わった経験がある。
「キャリア開発センター」とか「キャリア支援機構」とか、一見すると前向きだが何をやっているのか分からない名前がついているのが特徴で、たいていは疲れ切ったおじさんたちにどうでもいいような仕事が与えられているものだ。
辞めさせる側も辞めさせられる側も、本業には一円の利益も産まないのだから、これほど後ろ向きな作業もない。
そういう日本企業の昔ながらの風物詩が今回これだけ注目されたのは、それが日本を代表する錚々たる大企業で、同時多発的に設置されているからだろう。まさに終身雇用が音を立てて崩れつつあるわけだ。
さて、この追い出し部屋だが、遅ればせながら政府もその実態を調査するという。調査するのは別にいいけれども、その後に政府が何をするのか、やや心配だ。
彼らが「退職誘導などすぐやめろ」と指導すれば、追い出し部屋はなくなるかもしれない。でも、それは企業の新陳代謝をストップさせ、組織全体のヒットポイントをジリジリ削ることになるだろう。
「柔軟に解雇できるルール」を明文化して与えるべき
では本質的なアプローチはどうあるべきか。それは、企業に一定の条件付きで、柔軟に従業員を解雇できるルールを明文化して与えることだ。それだけで、日本中から追い出し部屋が消え、会社ももっと生産的な業務に専念できるはず。
解雇された人も心配はいらない。「解雇できる」というオプションがつくことで、彼の再就職のハードルはこれまでよりずっと低くなるからだ。
現在、政府は、不振が続く電機産業への一兆円投入を検討中だ。特定の産業に税金を投じることは、筆者は非常に大きな問題があると考える。
政府が有望事業を選んで育てられるとは思えないし、そもそも納税者に対して示しがつかない。なにより、無条件で救済される大手企業を見た若者は、より大手志向を強めることになるだろう。金だけではなく人も浪費することになりかねない。
市場で敗れた産業に一兆円出すよりも、規制緩和によって市場から一時的にあぶれた人達の支援のために資金を使った方が、長い目で見れば日本社会のためになるというのが筆者の意見だ。(城繁幸)