前回の記事では、楽天の英語公用語化でメリットを感じている人たちの声を集めたが、その陰には流れにうまく乗り切れず苦労している人もいる。
「中堅スタッフの中に、うつになって休職したり退職したりする人が割といるようです。一般社員は断片的にしか聞いていないのですが、会社は全社的な実態を把握しているという噂です」(20代の女性事務職)
うつの原因のひとつは、TOEICのスコアに対するプレッシャーだ。
規定の点数が足りずに「降格」「休職」「退職」する人も
会社が社員に求めている英語力の水準は、TOEICの点数で一般社員が600点、係長クラスが650点、部長クラスが750点となっている。各職級の規定点数に満たないと、降格あるいは給料の1割減という「処分」が待っている。
特に新卒入社3~4年目の「中堅」に対するプレッシャーが強く、点数をクリアできずに処分される人が出ているという。また、会社のやり方に反発したりモチベーションが下がったりして、退職に至った人もいるそうだ。
「英語ができなかったら会社にいられない、という嫌なプレッシャーがかかり、余計な不安だけが高まって勉強が進まないという人の話を聞きました。焦るばっかりで、ぜんぜん集中できないのだとか。本当に気の毒です…」
休職や退職の理由は「英語」ばかりではないだろうが、欠員が出たために他のスタッフが穴埋めにあてられ、自分の仕事にしわ寄せが来るというケースも見られるという。
一方、英語の点数をクリアしたものの、日本語オンリーの業務環境は変わらず「何のために勉強したのか」と呆れる人もいる。面白いことに英語公用語化の徹底度合いは、社のフロアによって微妙に違うらしい。
「楽天タワーには1号館と2号館があるんですが、1号館には事業部や開発部など主要な部署が入っていて、社長室もそこにあるんです。それで、英語の徹底度は1号館の方が高いんですよ。社長室に近いってこともあるんじゃないですかね」(30代の男性営業スタッフ)
堂々と日本語で仕事をする部署も密かに存在する
2号館には楽天トラベルや楽天リサーチ、結婚相談サービスのオーネットなど国内向けサービスを行うグループ会社が入っており、中には堂々と日本語でコミュニケーションが行われている部署もある。
「英語公用語化とはいっても、顧客が日本人のサービス運用や営業などには、当然外国人はほとんど配属されていません。だから仕事で英語を使う必要は全くないんです。大きな会議では英語の資料を作ったりしますが、仕事は基本、コテコテの日本語です」
とはいえ、社内で外国人をよく見かけるようになり、英語を見たり聞いたりすることも多いので、「英語公用語化自体へのアレルギーはずいぶん減った」という。
このような「弊害」は、事前に社外の批判者から指摘されていたことだ。「それ見たことか。まさに言ったとおりだろ」と思う人もいるかもしれない。
しかし連結で7000人を超える全従業員からすれば、休職者や退職者の割合はごく小さいようだ。数が少なくとも弱者の視点で批判を強めるべきなのか、それとも全体として得た効果で評価するのか。完全英語公用語化から4か月。結論を出すのは、まだ早いかもしれない。