千葉市の某区でケースワーカーをしていたA(男性、30歳)が3年間にわたり、生活保護費の一部など約180万円を着服した。千葉市はAを懲戒免職処分とし、業務上横領罪で警察に告訴した。
生活保護受給者が年金を受け取るようになると、生活保護費が減額される。通常は市が減額後の金額を計算して支給するが、Aはその手続きを意図的に怠り、従来どおりの金額を支給した。そして、対象者に連絡をして「過払い分」を窓口に現金で持参させ、受領した現金を返戻処理せずに着服していたのである。
5年前にも大きな問題になっていたはずだ
発覚のきっかけは人事異動だった。Aの後任の担当者が、ある日窓口で生活保護者から現金で返金を受け、異常に気づいた。内部調査に対してAは犯行を認めた。着服した金は、家電やパソコンなどの購入に使ったそうである。
以前、テレビのドキュメンタリー番組でケースワーカーの奮闘ぶりを観たことがある。本当に大変な仕事だ。Aも毎日激務に耐える中で、自分の給料に不満をもっていたのか。あるいはストレスが高じて魔が差したのか。理由は何であれ、許されない愚行だ。
大部分の公務員はまじめに働いている。Aの犯行は、公務員や社会保障システム全体への不信感を深めるという点でも罪が深い。年金や生活保護費の支給管理の甘さをついたこの手の不正は、一向になくなる気配がないようだ。J-CASTニュースの次の記事を読んでいただきたい。
「年金だけじゃない公務員ネコババ 生活保護費着服も横行?」
この記事は2007年9月、なんと5年も前のものである。2003年には「ケースワーカーが現金を扱うこと」を原則禁じるなどの防止策がとられたが、2006年からの2年足らずで着服額は優に1億円を超えているという。この間、管理体制に何の進歩もないのかと、ため息をつきたくなる。
Aの職場にも、内部統制といえるものがほとんど存在しなかったのか。千葉市はAの上司であった6人を処分したが、個人の管理責任を問うだけでなく組織としての管理のずさんさを徹底的に改めなければ、同様の不正は確実に再発する。ひょっとしたら、新たな不正が今も進行中かもしれない。
「就業環境」や「処遇」にも問題があるのではないか
「動機」「機会」「正当化」――。以前解説した「不正のトライアングル」という3つの心理的要素から、再発防止策を考えてみよう。
まずは、現金管理の厳正化による「機会」の低減が待ったなしだ。受給者毎の支給データベースを整備する。現金授受の事務は極力減らす。例外運用は原則禁止する。現金処理は1人に任せない。管理者が毎日必ず入出金明細をチェックする。これら極めて基本的な内部統制手続きを整備・運用するのが第一だ。
同時に、Aがなぜこのような犯行に及んだのかを究明して、ケースワーカーの就業環境や処遇に改善すべき点はないか、公金を取り扱う者としてのコンプライアンス意識や倫理観をどう高めるかなど、横領の「動機」と「正当化」を誘発する要因をなくしていく努力を継続していくことも必要である。
社会保障と税の一体改革と称して、消費税引上げが強行されたが、生活保護費や年金の支給管理がこの体たらくでは、穴のあいたタンクに国民の血税を注ぎ込むようなものではないか。党利党略に明け暮れる国会議員の大幅削減も含めて、2014年4月の消費税引上げまでに是正すべきことが山ほどある。
年金、生活保護費を扱う全ての組織が、この事件を我が事としてとらえ、不正受給の撲滅はもちろん、職員による着服防止にも徹底的に取り組まなければならない。(甘粕潔)