大企業が「親族の生保受給者」を調べ始める
ただ、実際にはこのニュースは世界では驚きを持って伝えられた。
「成人に対して親族による扶養義務化だって? オゥ、ジャパンは相変わらずクレイジーだ」
先進国で成人後の大人の扶養義務を国民に課している国は日本くらいだ。ビル・ゲイツの親兄弟だって、生活に困ったら公的扶助を受けられる。
成人したら完全に個人として扱い、そのための原資は所得に応じてみんなで負担する。それが近代的社会保障の原則であり、他国はそうやって古い社会から開かれたオープンな社会へと進化してきたのだ。
そんな中、まるで戦前に先祖返りするかのような日本の決定は、他国からは奇異の目で見られた。とはいえ、山本君のような国民の多くは、そんなことも知らぬまま、有名人が謝罪会見を開くたびに歓声を上げて騒いでいた。
やがて社会はゆっくりと、だが確実に変わり始めた。親兄弟が貧乏であることは重大なリスクだ。リスクは排除しなければならない。女性誌は堂々と「親族に生活保護受給者がいるオトコの見分け方!」という特集を組むようになった。実家が貧乏だったり、兄弟姉妹にニートや引きこもりがいる人間は結婚対象外だ。
大企業も、社員の働きぶりに影響が出ることを恐れ、面接時に親族の生保受給者を調べるようになった。結婚相手や求職者の身辺調査が一般的となり、興信所はかつての活況を取り戻しつつあった。結局、実家が貧乏な人間は結婚も就職もしにくい社会になった。
もっとも、お互い貧乏人同士なら、相手の親族に生保受給者がいようがニートがいようが気にする必要はない。上流家庭出身者は大企業に入って同じ階層出身者と結婚する一方、貧乏家庭出身者はブラック企業に就職し、同じように貧乏な人と結婚するようになっていた。社会には目に見えない壁ができつつあった。