「ノマドな社員」をこのまま放置しておいていいのか?

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   最近、フリーランサーが決まった事務所を持たず、カフェなどを「遊牧民(ノマド)」のように転々とする働き方が注目されている。会社員が毎日決まった時間に決まったオフィスに出勤する「定住」と反対の概念のようだ。

   しかし会社員でも、オフィス以外で働いている人はこれまでにもたくさんいた。この流れはこのままでいいものなのか。ある会社では、人事部が社員に広がる「ノマド化」に不安を感じているという。

喫茶店から電話「おたくの社員の忘れ物が…」

   ――広告代理店の人事です。おかげさまで会社の業績も回復し、仕事が増えつつあります。社員の負担は増えているのですが、業績に応じた期末ボーナスも約束しているので、よく頑張ってくれていると思います。

   ただ心配なのは、社員が社外で仕事をするケースが増えていること。自宅で仕事をしている人は以前からいましたが、最近ではスマートフォンやノートパソコンを使って、喫茶店などで仕事をする社員が増えているようなのです。

   なかには喫茶店に忘れ物をしてきて、お店から会社に、

「おたくの社員さんのものと思われる手帳と名刺入れ、書類を預かっています」

と電話がくる始末。営業部長に、会社の外への書類持ち出しを禁止してはどうかと相談したところ、

「いまは忙しくて大変な時期なんだから、ちょっと大目に見てくれないか? 個別に指導するからさ」

と言われてしまいました。他の社員にも聞きましたが、

「報告書を作るためだけに、わざわざ外出先から会社に帰るなんてバカげてますよ。文明の利器があるのに」

と、まるで現実を分っていないというように一蹴されてしまいます。

   テレビでいわゆる「ノマドワーカー」が取り上げられたことで、そういう働き方にあこがれる若い社員もいますし、今後増えていくかもしれません。会社としてなりゆきに任せていいとは思えないのですが――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
会社員には「情報漏洩のリスク管理」が欠かせない

   広告代理店の営業ということですから、おそらくクライアントがある仕事と思われます。フリーランサーの場合、仮に情報が漏えいしても個人の責任になりますが、会社員の場合はそれではすみません。取引の打ち切りや、ひいては会社の信用低下という悪影響も考えられます。顧客データや社内システムのパスワードなどを含む機密情報の保護には、細心の注意を払う必要があることは言うまでもありません。

   情報セキュリティに関する社内ルールを作っている会社は多いと思いますが、IT機器の発達によって仕事を取り巻く環境は急速に変化しています。現状に合わせたルールの見直しや、社員教育が必要な会社も少なくないでしょう。ルールを破って問題を起こした時には、社員の処分も必要です。ルール徹底と万一の場合に備え、情報管理についての誓約書を交わし、就業規則にも情報管理の取り扱いと懲戒について定めておいた方がよいと思います。

臨床心理士・尾崎健一の視点
ノマドワークは際限がない。社員の健康管理の視点も

   震災後に在宅勤務が注目されるなど、「会社に行かなくても仕事はできる」と言われることが増えました。確かに職種によっては、通勤しなくてもできる仕事と、それを支える環境が増えてきたと思います。管理の仕方は難しくなる面もありますが、時間を有効に使えたり、発想が広がったりする一定の効果は認めてもいいのではないでしょうか。

   ただ、これが行き過ぎると「出張の報告書は、帰りの新幹線の中で作れるよな?」とか、金曜の午後に「月曜の朝までにやっておいて!」と言い出す上司や顧客がでないとも限りません。仕事の負荷が大きくなりますし、プライベートとの境目がなくなるとストレスを引きずりやすくなります。まずは社員の「ノマド化」に対する実態調査を行い、その中でセキュリティ面の問題に加え、心身への負担についても聞き取りを行った方がいいかもしれません。フリーランスは最終的には自分の権限で「イヤな仕事はイヤ」と言えますが、会社の信用を背負う会社員は、そういうわけにはいきません。会社員のノマド化が「マズイところ取り」にならないように、管理職や人事が配慮してあげるべきです。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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