なぜ日本に「移民受け入れ」が避けられないのか

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   高齢化問題は、現代日本の抱える最も深刻な問題のひとつだ。

   それは、いわゆる団塊の世代がリタイアする時期を迎えているからである。団塊の世代とは、第二次大戦直後に生まれた人たちのこと。現在61歳から64歳の彼らの人口は、年に200万人以上もいる。

   一方、10代後半から21、2才までの人口は、年に120万人から130万人程度しかいない。差し引き100万人ほどの労働力が毎年減っている計算だ。このまま時がすぎると、年金や健康保険で財政が崩壊するだけでなく、国の活力が失われていくことは間違いない。

20代の若くて元気な労働力を増やす必要がある

   この問題を打開するために

「若い女性にたくさん子どもを生んでもらおう」

というのが、国を挙げてのコンセンサスとなっている。しかし残念ながら、これは目の前の問題を解決するには役立たない。

   それは、赤ん坊が生まれてから労働力になるまでに20年前後かかるからだ。

   新しい命が誕生するのは素晴らしいことだが、20年、30年も経ってから労働力が増えたとしても、その頃には団塊の世代は80代から90代になっている。当座の高齢化問題は終盤にさしかかっている、ということだ(団塊の世代のすぐ下の50代の人口は比較的少ないので、問題はずっと小さくなる)。

   国家百年の計のために、子孫を増やすことは必要かもしれない。しかしそれだけでは短期的・中期的な問題を解決することはできないということだ。

   崖っぷちにいる日本経済。今後の2、30年を無為に過ごしたら、それこそ日本は「一巻の終わり」となるだろう。我々はどうすればよいか。

   そこで理想的なシナリオは、20代の若くて元気な労働力が増えることだ。そうすれば人口構成のひずみも解消されるし、国の活力も戻るだろう。

   そしてそれを可能にするのが、移民の受け入れである。

   例えば、介護の問題。すでに大きな問題だが、これが一番深刻になるのは団塊の世代が介護世代になった時だ。その時のための備えをしておく必要がある。能力とやる気のある外国人の方には是非来ていただければありがたい。

それとも貧しくなることを受け入れるのか

   才能のある移民を受け入れることによる効用は、さらに大きい。

   アメリカではインド系は全人口の1%未満だが、医師、大学教授などの割合は非常に高い。シリコンバレーのエンジニアの約半数はインド人である。アップルやグーグルの成功の影にインド人あり。彼らがアメリカの科学技術や産業の発展にもたらした貢献は非常に大きい。

   アメリカの一流大学にはインド系以外にも中国系、韓国系などの優秀な頭脳が集まって、世界一のレベルが堅持されている。もともとの主流派だった白人男性が肩身の狭い思いをするくらいの状況だ(つまりアメリカの白人の若者も競争社会で苦労している、ということだ)。

   日本では東大が9月入学への移行を検討しているらしいが、日本の大学が国際的になることで、外国人の優秀な頭脳を日本に呼び寄せることにつながればよいと思う。

   日本人は今まで言葉その他の壁で守られてきた。その壁を取り払うことで、日本の若者の真価を世界に見せる時がくるだろう。その時になって、

「今までぬくぬくと恵まれた環境にいたことがよくわかりました」

などと、吠えづらかかないように(笑)。

   話が横道にそれてしまった。結局、日本としては、移民を受け入れるか、それともそれを拒否して高齢化で貧しくなっていくか、のどちらかしかないと思う。

   「移民受け入れは拒否するが、その代わり税金も保険料もたくさん払います」というのも一つの選択肢かもしれない。しかし、そうこうしているうちに、日本経済が衰退の一途をたどっていくことは確かだろう。

「就職氷河期なのに」という指摘は当たらない

   移民受け入れの話には、さまざまな反論が予想される。他の方法もあるのではないか、治安が悪くなるおそれがあるなど。

「現在の20代は就職難で働き口に困っているのに、なぜ移民を受け入れて仕事をさせる必要があるのか」

という反論もあるかもしれない。

   しかし、「就職氷河期」と言われる現在であっても、現在の若者は必ずしも就職事情が悪くなったといえず、それに目を奪われて「人材不足」への手当てが行われないことの方が、国としてずっとリスクが高い、というのが私の考えだ。

   2011年の大卒求人は約58万人で、2012年は約56万人。22歳の人口は130万人程度なので、半数近くの若者が大卒相当の仕事を得られる状況となっている。

   一方、1995年から2005年のころを振り返ると、求人数は2011年・2012年と大差ないレベルだった(一番求人が少なかった1996年は39万人だった)。しかし22歳の人口は200万人から150万人と多かったので、2割から3割程度の若者しか大卒の仕事にありつけなかった。これが実態である。

   つまり若者からすれば現在の方が競争率が低いため就職事情が良く、企業からすれば人手不足あるいは必要な能力のある人がなかなか採用できない、ということになる。不満を漏らすとすれば、何か別の原因があるのだろう。

   今の高校生の世代は、一学年あたりの人口がさらに減って120万人前後となっている(人口統計のデータは総務省統計局のものを、求人に関するデータはリクルートの数字を使用)。このままいくと人手不足がさらに深刻になっていくことは目に見えている。実際、色んな職種で人手不足の声が聞こえてくる。それをタイムリーに改善するには移民の受け入れしかない、ということだ。


小田切 尚登

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小田切尚登
経済アナリスト。明治大学グローバル研究大学院兼任講師。バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバ等の外資系金融機関で株式アナリスト、投資銀行部門などを歴任した。近著に『欧米沈没』(マイナビ新書)
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