「あの、ところで君さ、フェイスブック使ってるの?」
IT商社の営業をしているSさん(31歳)は、ある日、上司から声をかけられました。
友達申請されたら面倒だな――。そう思ったSさんは、とっさに「いえ、登録はしたんですが、書くこともないので、ぜんぜん使ってないんですよ」と答えたそうです。
嫌なことがあったら、実名で悪口書いてスッキリ
でもそれはウソで、本当はヒマさえあればケータイ電話からフェイスブックに書き込みをしています。
客先に行って邪険にされれば会社の実名をあげて「なにあのクソ会社えらそうに」、取引先との意思疎通がうまくいかないと担当者名をあげて「あいつ何年この仕事やってんだ」などと書き込みます。
営業途中に入った店でランチを食べて、おいしくないと食べ物や店の写真を貼って「これはマズすぎる」と店名をバラします。もちろん上司も「ヘタレ」の「クソオヤジ」呼ばわりで言いたい放題です。
「友達」は厳選し、古くから付き合いのある、口の堅い信頼できる人しか受け入れていません。会社の同僚は「友達」にしていません。なので好き勝手が言えるわけです。
「友達」は、「そりゃひでえな」とか「お前が自重しろ!」とか、いろいろと突っ込んでくれます。いつしか、イライラしたらすぐにフェイスブックに書き込んでスッキリするのが習慣になってしまいました。
これがなかったら、不満のはけ口なんてなかったよな。赤ちょうちんでグチを言ってた昔のサラリーマンってこんな感じだったのかな、などと想像していたのだそうです。
そんなある日、Sさんはある新サービスを紹介する無料セミナーに参加しました。質疑応答の時間になったので、手を上げて会社名と名前を名乗り、不明な点を質問しました。しかし、回答がどうも要領を得ません。
Sさんはいつものように、会場を後にしながら「○○セミナー終了。講師がバカで質問にも答えられない」と書き込みをしました。すると、30分ほどしてから、見慣れない人からのコメントが入りました。
「はじめまして。あのセミナー、すごく分かりにくかったですね」
実はネガティブ書き込みが丸見えだった
Sさんは、コメントをした人の名前をまじまじと見ましたが、見覚えがありません。プロフィールを確認すると、同じ業界の人のようですが、会ったこともないし、「友達」にもしていません。
まさか……。Sさんは、「友達」になっていない学生時代の後輩に電話して、フェイスブックで自分の名前を検索するよう頼みました。すると後輩は、
「あ、ありましたね、Sさんのページ。なんか近況に文句ばっかり書いてるじゃないですか、相変わらずですね(笑)」
これまでの書き込みは、後輩にもすべて丸見えでした。フェイスブックの「プライバシー設定」の「デフォルト設定」が「公開」になっていると、フェイスブックに登録している人なら誰でも書き込みを見ることができるのだとか。セミナーで名乗った名前で検索してきた人が、コメントを残せるわけです。
「えっ。友達じゃないのに見えちゃうなんて、おかしくない?」
「いいじゃないですか。友達にだけ限定してたら、出会いは広がりませんよ」
悪口を書きたいときは、書き込みごとに「公開範囲」を選択し、「親しい友達」などあらかじめ設定した特定のグループにのみ限定する方法もあった。ITに詳しいつもりだったのに、なんとうかつなことか。Sさんは真っ青になりました。
結局ネガティブな書き込みを削除することにしましたが、考えてみればほとんど全部。アカウントごと削除するかな、と考えながら、以前上司から声をかけられたことを思い出し、「ああ、俺もうダメかも……」と落ち込んでいるところだそうです。