2012年4月に政令指定都市となる熊本市で、出先機関で働く49歳の男性係長と47歳の技術参与に、停職6か月の懲戒処分を下された。理由は、新人職員に対する悪質なパワーハラスメントだ。
入職以来2年半にわたり、ほぼ毎日30分から1時間の正座をさせ、「お前の仕事の尻拭いをしてやった」などと言いがかりをつけて、寿司や焼肉、うなぎなど計100万円以上の昼食代をおごらせていた。
所長も正座を目撃「指導熱心だと思った」
今年に入ってからは夜の宴会代も支払わせており、新人職員は11月からメンタルヘルス不全で休職している。上司である係長に書類の決裁をしてもらえないといった、仕事上の嫌がらせもあったようだ。
2人は市の調査に対し、当初は「自分たちもそう指導されてきた」と言い訳をしていたが、その後「やりすぎた」と認めたという。このニュースには、若いネットユーザーを中心に強い批判の声があがった。
「パワハラ?恐喝の間違いだろ」
「停職じゃなくてクビだよな」
特に、すべての職員が正座を目撃している点や、正座をしている間は「他の職員に怪しまれないよう笑顔でいることを強要した」点、市の調べに対して上司である所長が「指導熱心だと思った」とコメントした点には、怒りが噴出している。
「この2人以外も全員共犯で懲戒レベル」
「部下を怖がり注意もできずに所長とは情けなさすぎる」
6か月で職場復帰ができるなら甘いものかと思うが、ある市の職員によると地方公務員にとって相当に重い処分であり、「事実上の退職勧奨」ではないかという。退職金が支払われるかどうかは不明だ。
懲戒免職には、多額の横領でもしないかぎりならないようだが、将来ある市の人材を長期間にわたっていじめ倒し、休職に追い込んだことは、ある意味で「貴重な市の財産」を損なったという見方もできる。「ヨーロッパなら1回でクビ」「損害賠償は億だな」という人もいた。
パワハラが恐喝事件に発展しにくい理由
ほとんどの組織でパワハラは内部で処理されるため、外部に知られることは少なく、今回のように市が謝罪会見をして処分を明らかにすることは珍しい。
労働問題に詳しいみらい総合法律事務所の辻角智之弁護士によると、パワハラの内容が恐喝の要件を満たしている可能性はあるが、それだけでは刑事事件になりにくく、民事裁判で慰謝料請求を選ぶケースが圧倒的に多いという。
「恐喝は親告罪ではありませんが、警察が捜査を行う前に被害届が出されるのが一般的です。しかし恐喝が認められても加害者に刑罰を科されるだけで、被害者に直接的なメリットはなく、恐喝目的を立証するために被害者もさまざまな取調べを受けなければなりません。心理的な負担も大きくなるので、そこまでして被害届を出すかという判断になるでしょう」
なお、新人職員は「職場でのハラスメント」に関するヒアリングを3回受けていたが、被害の報告をしていなかったというから、今回も「被害届」は出されないかもしれない。恐怖心で声が出せなかったのか、地方都市の出先機関の「逃げ場のない空気」が諦めを誘ったのだろうか。