お客さまと電話をしているとき、コールセンターのモニター画面には、カードを作る際に登録した住所や氏名、年齢、勤務先といった契約情報が表示されています。
つまり、督促の電話でオペレーターを罵倒するお客さまは、「私はこういう会社に勤務しています」「年収はいくらです」「何歳です」「どこそこに住んでいます」といった名札を付けて相手を怒鳴りつけているようなものなのです。
アノ大企業の社員曰く「お前、どうせヒラだろ?」
あるとき、私が督促をしたお客さまに、誰もが知っている一流企業にお勤めの男性がいました。そのお客さまは、電話口でいきなり「お前の役職は?」と尋ねてきました。「は、社員ですが・・・」と答えると、
「どうせヒラだろ? そんな権限のない奴が、なんでこの俺に電話してきてんの?」
と言ってきて、びっくりしたことがありました。自分に電話するなら、会社のもっと偉い人がかけてこい、というわけです。
その後、お客さまの勤める会社は、大きな不祥事を起こしました。そう、名前はいえないのですが、歴史的な事故を起こしてしまったあの会社です。何か月経っても一向に収まらないバッシングを見ながら、
「ああいう上から目線の社員さんが働いている会社だから、窮地に立たされたときに誰も擁護してくれないんじゃないかなぁ…」
なんて思ってしまいました。
別の日に、ベテランのオペレーターの女性数人と一緒にお昼ご飯を食べていた時のこと。彼女たちが唐突に、こんなことを言い出しました。
「そういえば最近、入れる保険、減ってきたんだよねー」
「ああ、わかります。この仕事してると、だんだん減っちゃいますよね」
そのときは何のことだか、さっぱり分からなかったのですが、後日クレームを受けるオペレーターの傍らでサポートをしていて、その理由が分かりました。
稼げる人は本当に低姿勢なのだけど
「アンタの態度が気に食わないから、絶対に払わないわよ!ふざけるな、くそババア!」
怒声とともに電話は叩き切られました。思わず耳を疑うヒドイ捨て台詞でしたが、電話の相手はまだ若い女性でした。オペレーターの青ざめた顔。モニターを見ると「○○保険外交員」の文字が。ああ、なるほど…。
オペレーターには守秘義務があるので、決してそれを口外したりはしません。けれど、私たちだって人間。散々罵倒した人が売っている保険に入っているのがイヤになり、自分の分をまとめて解約してしまうこともあるわけです。
もっとも、罵倒したお客さまも、単に資金がなくて支払えないのをオペレーターに当たっているだけ。もう少し明かすと、歩合制の外交員さんはつなぎ資金にキャッシングを利用されることが多く、稼げる外交員さんは本当に低姿勢なのですが・・・。
もちろん、オペレーターが解約したところで、会社に与える影響など微々たるものでしょう。しかし、その保険会社のCMで「お客さまとの信頼」を前面に打ち出しているのを見て、複雑な気持ちになっている人がいるのは確かです。
企業が莫大なお金をかけて広告を出しても、企業に属する一人の行動でイメージが簡単にマイナスになってしまいます。怒鳴るお客さまの電話を受けるたびに、なんだかもったいないなぁ、と感じずにはいられません。
「一部の態度の悪い人のせいで、企業のイメージが崩れちゃいますよ~。だから、オペレーターさんを怒鳴るのはやめましょう!」
N本(えぬもと)