これっていいの? 残業時間を上司が勝手に減らしてる

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   強力なリーダーシップを持った上司が、部内だけで通じるローカルルールを作って運用することがある。法的には危ないところがあるものの、部下たちが納得している場合、会社として放置してよいものだろうか。

   ある会社では、月の残業時間を部長の一存で増やしたり減らしたりすることに、ひとりの社員が異論を唱えているが、他の同僚たちはあまり問題視していないのだという。

部長から「現場が分かってない」と反論され

――金融サービス業の人事です。総務部門からサービス部門へ異動になって3か月のAさんから、「残業時間の集計方法」について相談を受けました。

   給与明細を見たところ、残業時間が前月より増えているはずなのに、時間外手当が増えていないのに気づいたそうです。そこで同僚に相談したところ、

「うちの部では、部員の残業時間は、部長が決定することになってるから」

と初めて聞きました。残業時間は毎日報告するものの、最終的な時間は月次の集計後、必要に応じて部長が増減してから人事部に提出していたそうです。

   Aさんは、「そもそも部長の方が先に帰るのに、僕らの残業時間なんて分かるわけがない。前の部署ではこんなことありえなかったですよ」と憤慨しています。それは問題だと部長に確認したところ、

「A君はこの部署に来たばかりで、仕事のスピードもまだ遅いんだよ。だから、他の部員たちと同じ時間をかけても、成果が正直多くない。部の総額の人件費も抑制するよう言われているご時世だし、このくらいの裁量は認めてもらわないとさ」

と、「現場が分かってない」といった感じで反論されてしまいました。

   当社では、残業は原則として事前申請が必要ですが、サービス部門では夜の割り込みの仕事も多く、事後承認にしているそうです。つまり、「どこまでの時間を承認するか」の調整を行なっているという理屈なわけです。

   他の数人の部員に尋ねてみたところ、このような運用は数年前から行なっているものの、「あまりおかしいと思わない」「部長は部員のスキルや仕事量をよく見ている」といった肯定的な声ばかりで、逆に信頼を集めているようでした。

   ただ、残業時間がどう調整されたかは、各部員に報告されておらず、その月分の給与明細が届くまで分からないのが少し気になるのだとか。部の仕事が円滑に回っているのに水を差したくない気持ちもしますが、どうやって改善してもらえばいいのでしょうか――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
仕事が遅い人は時間単価(基本給)や賞与で調整すべき

   残業代は実労働時間で払わなければならないので、このままでは労基法違反となるおそれがあります。もし本人が手帳に実労働時間をメモしていたら、訴訟でも負けますし、労基署が入れば指導を受けて、未払い分を支払わざる得ません。「社員との信頼関係が」「暗黙の了解が」と言っても、道理は通りません。

   したがって管理職がコントロールすべきは、各社員の実労働時間ということになります。事前に申請した時間を超えて会社にいないよう徹底し、残業時間の長い人は仕事量を減らすようにすべきです。成果を出すのに時間がかかりすぎる人は、時間単価(基本給)を下げて調整することも検討します。減給のような形は難しいので、評価によって上げ下げをするしかありません。基本給の見直しに時間がかかる場合には、賞与時の評価で調整するということを検討してはいかがでしょう。

臨床心理士・尾崎健一の視点
ホワイトカラーの「仕事の速さ」を判断するのは難しい

   ホワイトカラーの仕事は、成果の内容や質が大事な場合が多く、質の良し悪しも受け取る人によって異なるので、生産性が分かりにくい傾向があります。時間当たりの成果物の量で生産性や効率が一目瞭然で分かる工場作業などとは、その点が違うところです。ある管理職から見て一方的に「仕事が遅い」と判断していると、強い反発を受けることもあります。給与の見直しなどをする前に、成果のイメージや仕事のやり方を観察し、改善を促すコミュニケーションを行うことも必要でしょう。

   なお、仕事のやり方を部下に任せつつ、あらかじめ定めた労働時間を働いたものとみなす方法もあります。専門性の高い業務や企画などの業務に適用される裁量労働制です。ただし、労使協定などの手続きが不可欠ですし、上司が仕事のやり方にいちいち口を挟んだり、裁量労働にそぐわない業務で適用しようとすると、実労働時間との差の未払い残業代を請求されますので、運用には注意が必要です。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。

上司が残業時間を勝手に減らしてますか?
全部ちゃんとついている
自主的に減らし申請
上司にカットされる
みなし残業時間制だ
残業代は一切つかない
尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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