ネット広告大手のサイバーエージェント(CA)が、「ミスマッチ制度」と命名した人事制度を導入するそうです。藤田晋社長のブログで詳しく紹介されていますが、主な特徴は、
「業績評価の下位5%をD評価とする」
「D評価2回でレッドカードとなり、退職勧奨か部署の異動かを選ばせる」
といったもの。人と仕事のミスマッチを是正する目的として打ち出されたもので、部下を傷つけたくないとか、嫌われたくないとかいった理由でD評価をつけられない上司は、自分自身にD評価がついてしまいます。
手厚い退職金制度で新陳代謝を促す会社も
こうした発想は、外資系企業では当たり前。組織から与えられたミッションに対し、期待されたパフォーマンスを出せないと「ミスマッチ」と判断され、人事部や上司から、
「いまの職場では活躍が難しそうなので、別の職場を考えた方がいいですね」
と職場を離れることを勧められます。本人と会社にとってハッピーであるという考え方から、グッド・セパレーションと呼ばれることもあるようです。
私の古巣であるリクルートでも、人と仕事のマッチングを促すさまざまな取組みが行われていました。先輩やOBなどがメンターとして仕事や自分のキャリアについて相談に乗ってくれましたし、誰もが新規事業を提案できる「ニューリング」という制度もありました。
現在では、勤続6年半以上の社員には、退職時に年収1年分相当の一時金を受け取れる「フロンティア制度」があるそうです。私たちのころも、30代後半になると退職金が減ってしまうので、それまでに独立を考えたものでした。
もちろん、働く人をサポートする側面だけでなく、会社として新陳代謝を盛んにし、新しい人材に機会を与える意味合いもあったと思います。それに、リクルートを「卒業」していった人たちが、独立して社外の有力な協力者になったりすることもあるわけです。
ただし、CAのようなやり方を含め、こうした健全ともシビアともいえる処遇をする日本企業は、ごく少数。高度成長期ならまだしも、不況の現在では転職を嫌がる人も増えましたし、組織も硬直して異動先を確保することも難しくなってきました。
爽やかに新たなキャリア見出したい
CAの取組みには、「日本的経営のよさをないがしろにしている」「長期的な人材育成の視点が足りない」「これでは社員の使い捨てだ」という批判もあるようです。
しかし、BやCならともかく、D評価をつけられているわけですし、それも2年続けて悪かったのに、対策を考えるべきではないという方がおかしいでしょう。
なにより、職場からミスマッチの人材を減らすことによって、より活躍が期待できる人材、あるいは可能性を秘めたより若い人にポジションを譲ることになるわけですから、本人だけが「ここから動きたくない」「ここは私の職場だ」と主張してもむなしいことです。
これまで企業は、採用時の「ミスマッチ」の回避に努力してきましたが、今後はCAと同じように、入社後の社員のパフォーマンスを最大限に引き出すために、対策を行う会社が増えると思います。
ただし、ミスマッチの責任は当事者だけでなく、その上司にもあります。人の能力を見極め、事実を踏まえて対策を考え、それでも壁を越えられなければ「次のキャリア」を検討することで、別の成長の機会の選択肢を提示する必要があるでしょう。
その際に必要なのは、上司の「人を見る目」。上司は、目利きでなくてはなりません。部下を「見切る」のではなく、可能性を「見極める」ことが大切です。
一方で、上司の「見る目」も絶対ではありません。悪い評価がついても自分を責めすぎることなく、自ら新しい環境を探すことも必要でしょう。お互い、爽やかに新たなキャリアを見出したいものです。
高城幸司