すでに3割台に減っている男性の喫煙者。しかし1960年代には9割近くがタバコを吸っていたそうだ。オフィスの机にも会議室にも灰皿を置き、堂々と吸っていたというのだが、まさに隔世の感がある。
ある会社では、タバコを吸うために席を外す男性が、就業時間後に残業をしていることに対し、非喫煙者の女性たちが「本末転倒だ」と批判しているという。
「こっちは要領よく仕事してるのに」
――運送業の人事です。本社の事務センター部長から「部内の喫煙者について、どうしたものか」と相談を受けました。
部の仕事は基本的に内勤で、若手の女性とベテラン男性社員が混在しています。このうち男性のほとんどが喫煙者で、仕事中にオフィス内の喫煙室にタバコを吸いに行きます。
それを見ていた非喫煙者の女性社員たちが、部長のもとに「不公平だ」とクレームを入れてきました。喫煙室から漏れる煙の臭いもさることながら、たびたび「タバコ休憩」をしているのに残業もするのはおかしいというのです。
「私たちは仕事中、なるべく早く切り上げようと要領よくやっている。なのにおじさんたちは、のんびりタバコを吸いながら、仕事が終わらないとか言って残業代を請求してる。本末転倒じゃないですか?」
男性側に聞くと、「このくらいの息抜きはいいじゃないですか」「女性にも休んでもらおうよ」という言い分。ホンネでは「うるせえな!」と言いたそうな人もいますが、どうしても禁煙できそうもないということなので、部長は、
「喫煙1回あたり5分かかるとみなして、残業時間から差し引く」
というルールを作ってもいいかと尋ねてきます。1回2本ずつ吸って、1日6回として12本、時間にして30分。その程度なら喫煙者も非喫煙者も納得するのではないかと思いますが、これをルール化してもよいでしょうか――
社会保険労務士・野崎大輔の視点
職場内の喫煙は「労働時間」。残業代から引けない
判例によれば、職場内で喫煙していても「何かあればすぐに対応できる状態」であれば、労働から完全に解放されたとはいえないので、「労働時間である」とされます。社外から電話がかかってきて、すぐに呼び出して対応できる程度であれば、仕事をしていなくても「手待ち時間」とみなされるわけです。
仕事の合間に給湯室でお茶をいれている間も、トイレに行っている間も、休憩時間ではなく労働時間とみなされるのと同じです。したがって、喫煙時間を集計して残業時間から引くことはできません。
ただし程度の問題として、喫煙が理由で仕事の能率が著しく落ちている場合には、その点を注意することはできます。「休憩時間以外では1日○回、○○分以内」といった目安を作り、守るように呼びかけることも考えられます。
臨床心理士・尾崎健一の視点
「職場は禁煙」が世の流れと理解してもらう
飲食店や駅構内、公共施設など、あらゆるところで「全面禁煙」の流れがあります。現在では禁煙治療には保険が適用されますので、就業時間中の完全禁煙もありうる時代になったと思います。禁煙に成功したら奨励金を出す会社もあるようです。
厚生労働省は、臨時国会で労働安全衛生法の改正案を提出する予定です。その中には受動喫煙を防止するために、「職場の全面禁煙あるいは空間分煙」を事業者に義務付ける内容が含まれています。喫煙者がいる場合には煙が漏れない「喫煙室」を設け、その中で吸わせなければなりません。
いらだちの背景に残業時間以外の不公平感もあるようなら、喫煙室の掃除などにかかる費用は、部屋の利用者が負担するようにしてはどうでしょうか。それ以外に会社負担の費用がかかる場合には、その分、女性たちの休憩用のお茶やコーヒー、お菓子などに会社の補助を上乗せして、バランスを取ってもいいかもしれません。
(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。