「テプラ」発明の2人に5600万円 高いのか安いのか

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   ファイルの背表紙にタイトルをつけるときなどに使う、電子式ラベルライター。「テプラ」などの商品名で知られているが、この製品の開発に携わった2人の男性に対し、最高裁は会社に「発明の対価」として約5600万円を支払うよう命じた。

   この男性は、ブラザー工業社員のY氏(49歳)と元社員のS氏(51歳)。ラベルに印字した文字をラミネート加工により保護してシールにする「印刷機の基本構造」を発明した対価として、会社に計4億円の支払いを求めて裁判を起こしていた。

提訴前の24万円からは大幅増額だったが

多種多様な「テプラ」のラインナップ(キングジムのウェブサイトより)
多種多様な「テプラ」のラインナップ(キングジムのウェブサイトより)

   いまではどのオフィスでも見られるラベルライターだが、元々は1980年代の後半にブラザー工業が開発し特許を取得。88年にOEM供給でキングジムから「テプラ」として発売され、現在累計700万台を販売する大ヒット電子文具になっている。

   09年3月までに、ブラザー工業は3000億円以上の売り上げを上げたとされるが、開発者の2人に支払われたのは、特許4件の実績報奨金24万円のみ。それが5000万円以上にもなったのだから、大逆転といっていいだろう。

   開発当時の会社は「この製品は自社では売れない」と判断し、他社にOEM供給して大ヒットしてから後追いで自社販売している。その経緯を考えると、開発者は会社に対して、いろいろと腹に据えかねることもあったのではと邪推したくなる。

   このニュースに対しては、「頑張った開発者が認められてよかった」と歓迎する人がいる一方で、「売れたのは開発の力だけじゃない」「そんなに自信があるなら会社を辞めて独立してやればいいのに」という声もある。

   今回のような判決が出ることで、社員の能力や努力が認められる環境が整えられるメリットはありそうだ。ただ、会社の風土によっては、他の社員からやっかみを受けたり、「会社に楯突いた」として冷遇したりする上司もいるかもしれない。

   ならばいっそのこと、自分で新しく会社を作ってしまってはどうか。職務上思いついた「成功間違いなし」のアイデアを持って独立すれば、5600万円どころではないリターンを得られるのではないか。

   しかし、朝陽特許事務所の砂川惠一弁理士によると、そのような形で発明を事業化することは、ちょっと考えるほど簡単ではないという。

「ある製品がヒットして収益を上げるためには、開発者の努力だけでなく、開発部門の設備や人員への投資、営業や流通、管理、資材調達や製造など間接部門の貢献が必要で、個人ではたいへん困難です。もし他の会社に持ち込んで事業化しようとすれば、不正競争防止法に触れるおそれがあります」

報酬額は「勤務規程」の決め方がポイントとなる

   要するに、会社の職務で行った発明に対する報酬は、その会社から得るしかないというわけだ。特許法では、会社は社内規程を定めて「相当の対価」を支払えば、従業員の職務発明に関わる特許権などを引き継ぐことができるとされている。

   今回は24万円が「相当の対価」には足りないとして裁判となったが、逆にいえば開発者にとっては、「相当の対価」を得られる勤務規則などがあらかじめ定められているかどうかが非常に重要となる。砂川弁理士も、

「トラブル防止のためには、その発明から得られた利益に応じて開発者に報酬を支払うよう、ルールを見直した方がよいでしょう。発明意欲を高める効果があるので、会社にとってもプラスになると思います」

と指摘する。ただし商品がヒットしたとしても、開発者だけが巨額の報酬を得られるような制度はバランスが悪いのではないかという。

「職務発明に関する勤務規則などを作るときには、従業員の意見を聴取した経過を反映し、社内の多くの部門の貢献を評価する内容にした上で、社内に広く開示しておく必要があります。また、職務発明についてはその特許権などを会社に承継させる勤務規則等を定めた上で、権利移転手続はその都度きちんと行う必要がありますね」

   なお、裁判で認められた開発者の貢献度は5~7%。残りの93~95%は会社の貢献度としている。ブラザー工業では一連の裁判を受けて、特に規則を見直してはいないが、「今後も労使で話し合う場を定期的にもっていきたい」としている。

   勤務規則等に定められた額が支払われていたとしても、「相当の対価」に満たない場合には不足分の支払いを請求できることが初めて示されたのは、2003年のオリンパスに対する訴訟から。このとき最高裁は、会社に約229万円と利息の支払いを命じている。

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