今回のテーマは「就職適性検査」の対策本です。取材を進めていくうちに、多くの適性検査本は、相当な手抜きをしていることが判明しました。
適性検査とは、今の就活の第一関門。筆記試験の一種なのですが、非言語能力問題(計算問題など)、言語能力問題(国語)、性格検査などを合わせたものです。大型書店に行けば、参考書や問題集が棚一面に並んでいますが、正直どれも大差ないような…。そう思っていたら、実は結構な違いがありました。
カバーを替えれば「最新版」のできあがり?
分かりやすいところでは「年度版」の改訂対応です。どの適性検査本も「最新の就活に対応できる」とアピールするために、カバーに年度表示を入れています。年度が古いなら定価で買うよりも古本屋で買った方がいいということになりますから、当然の話です。
ところがカバーを外すと、年度が刷られていない本があります。主要12社を比較してみると、カバーと本体の両方に年度表示があるのは5社。本体に表示がないのは7社にのぼりました。
これはどういうことか。要するに古い版を使い回しても、カバーさえ変えれば常に新しい年度版として販売できるわけです。出版社としては、校正の手間がいらないので利益率も高くなるという次第。
念のため、過去の本も国立国会図書館で調べてみました。洋泉社が刊行する本は内容がちょこちょこ変わっているのですが、ひどい社だと発刊した10年前とほぼ同じ。ウイスキーやワインで5年物・10年物なんて言い方をしますが、まさか就活本でも同様のことがあるとは思いもしませんでした。
でもねえ、10年前の本って、ブックオフだと良くて100円、下手すれば買い取り拒否ですよ。それを10倍以上する定価で販売するのは、学生を微妙にだましているような気がするのですが…。
もちろん、本体に年度表示が入っていたからと言って安心はできません。年度表示は違っていても本文や構成はほぼ同じ、という本もありました。
私も自著のうち高校生向け進路ガイド(『時間と学費をムダにしない大学選び』/山内太地との共著)が年度版なので、改訂の手間がいかに面倒か熟知しています。もちろん、前年とは変えようのない部分はどうしてもあります。私の本も前年と同じ部分が多数あります。
しかし、年度版をうたう以上、前年版と全く同じでは読者をバカにしているも同然。私の場合はコラムなどを総とっかえしています。これは私が知る良心的な著者であれば同様です。関係する出版社・著者はこの疑念に対して、真摯に対応する必要があるのではないでしょうか。
著者自身が「賞味期限切れ」を警告している本も
それから、同一著者がやたらと目立つのも適性検査本の特徴です。就活本でも同一の著者が何冊も本を出すのはよくあることです。
例えば人事・雇用ジャーナリストの海老原嗣生さんは、多作なことで有名です。就活やキャリアという同一テーマで何冊も書かれているので、若干重複する部分もあります。しかし、新刊の『就職、絶望期』(扶桑社新書)をはじめ、全体を通して読むと、過去作ときちんと書き分けられているのが明らかです。
ところが、ある著者は何冊も出すばかりでなく、ある問題集については使い回しをブログで表明しています。
「しかしこの『○○問題集』は私が×年前に書いて以来、著者である私は一度も改定していない。だから完全に問題の質や配列などの賞味期限は切れていると思っている。(中略)そんな古い体質の本は早く市場から消えるべき。読者はもっと中身を見る目を持つべきだと思っている」
どうやら、この問題集は販売部数に応じて支払われる「印税契約」ではなく「原稿買取契約」だったため、発行以来改訂していないということらしいのです。そういう本を買ってしまった学生こそいい迷惑です。
何冊も出すことがダメというわけではありません。就活本だろうが小説だろうが、どの分野でも多作家はいますし、読者を満足させるクオリティであればいいのです。乱立する適性検査本の分野で、我こそは、と自信を持って言える本の著者と出版社はどれくらいあるのか、興味深いところです。
石渡嶺司