「就活の記事を読むと不安になってしようがない」――。そんな学生が大勢います。あまりに悲観的な論調が多いので、戦意を喪失してしまいそうだという人もいます。
確かに現状は、学生にとって楽なものではありません。しかし、氷河期云々の状況と、個人の就活の問題は、必ずしも同じではありません。そもそも新聞や雑誌、テレビの報道は、何かと不安を煽るように作られているものなのです。
「5人に1人定職なし」は苦肉の策だった
「大卒10万人進路未定…就活中やフリーター多く」(読売新聞)
「今春の大卒就職率61.6% 進路未定19%、10万7千人」(共同通信)
「11年春の大卒、5人に1人『定職なし』 文科省調査」(日本経済新聞)
2011年8月4日、文部科学省は11年3月卒業者の就職状況などをまとめた「学校基本調査」を発表しました。上記の見出しは、これを受けて新聞各社が記事にしたときのものです。どうです?「おお、今どきの就活って厳しいんだな」と思わせるのに十分なものです。
果たして、実態はどうなのでしょうか。具体的なデータで検証してみましょう。11年3月末の全大学の卒業者数は55万2794人。これに対して就職者数は34万378人。これを割った数が就職率で61.6%となっています。
この数字は、リーマンショック前の08年度の69.9%、09年度の68.4%と比べれば、確かに7~8ポイントは下がっています。しかし、前年の10年度には、すでに60.8%まで落ち込んでおり、11年度にはやや回復しているわけです。
それに、バブル崩壊の影響が深刻だった03年度には過去最低の55.1%だったのですから、これに比べればまだまだいい方です。
もし前年度の就職率を割っていたら、各紙は鬼の首を取ったかのごとく「就職氷河期がより悪化」という見出しを掲げたでしょう。しかし、微増ではさすがにそうも書けません。そこで代わりに持ってきたのが「5人に1人定職なし」という見出しでした。
記事には載らない「都合の悪いデータ」
日本経済新聞の記事(11年8月5日付朝刊)には、次のように書かれています。
「大学を卒業した春に定職に就いていない人は3年連続の増加」
「10万人を超えたのは2年連続」
こう言われると、やっぱり就活は相変わらず厳しいんだな、と思う読者は多いはず。しかし「学校基本調査」をひっくり返してみると、進路未定状態の人は10年の10万6506人に対し、11年は10万7134人と微増しているに過ぎません。
06年~09年も7.1万~9.8万人で推移していたわけですし、03年には過去最悪の14万7929人もいました。高度成長期やバブル期と比べれば確かに悪いのですが、2000年代の前半に比べればかなり改善されているのです。
しかし記事には、そうした「都合の悪いデータ」はどこにも出てきません。リクルートワークスの調査によると、従業員数1000人未満の企業では求人倍率が2.16倍。300人未満では4.41倍という結果も出ています。こういうデータも、あまり大きく報じられません。
その理由は、マスコミ各社が就活関連の記事ではいつでも「就職氷河期は深刻を極めている」というストーリーにしておきたいからです。危機感を煽ったほうが、新聞も雑誌も売上げが伸びるのです。
ストーリーに合わないコメントを拒否する記者
私も昨年、「10月の就職内定率が過去最低」という調査結果に対して、ある新聞記者からコメントを求められたことがありました。しかしサンプル調査なので信頼性に乏しく、しかも途中経過。就職活動の長期化の影響もあるし、実際の就職率はそこまで悪化しないのではないか、と答えました。
しかし、相手の記者は耳を貸さず、
「データの信頼性云々など言い出したらキリがないですよ。細かい理屈はいいので、厳しい現状をまとめたようなコメントをもらえませんかね」
と言ってきました。
そのようなコメントは出せないとお断りすると、記事にならなかったばかりか、気分を害されたのか、その後は連絡が来なくなりました。このように、新聞記事は記者の主観でねじ曲がることすらあるので、報道を見て戦意喪失するよりも、軽く受け流す方がはるかにマシなのです。
石渡嶺司