東京電力には「二重のお堀」がある

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   超一流の名門大企業である東電様が、10%の電気料金値上げを政府の第三者委員会に打診された。なんでも「原発停止で化石燃料代がいろいろと入用だからである」というのが理由だそうだ。

   普通の会社だったら自分でコストカットするものではあるが、そこは東電様である。我々下々の者は謹んで賃金や小遣いカットで、東電様のご要望にお応えしなければならない。

リストラ、賃下げなしに値上げできるワケ

   さて、ひょっとすると読者の中には「庶民からふんだくるとは何事か!」というアカもいるかもしれないので、不肖ながら筆者が、東電様が我々に下されたる要求の正当なる根拠について説明させていただこう。


1.社員はリストラされるべからず

   日本には終身雇用という「経営体力のある大手企業と、コストは気にしなくていい公務員限定のルール」があり、当然、東電様もこのルールの保護下に置かれる。よって、普通の会社が赤字になった時に真っ先に行われるリストラはもちろん、平均年収800万円超の給料や手厚い企業年金の見直しなんてありえない。

   一応、第三者機関が見直すと言っているが、潰れてもない大企業で賃下げなんてできない。せいぜい若手の昇給を抑制して「ほら、平均賃金下がりましたよ」くらいが関の山だ。


2.新規参入するべからず

   とはいえ、終身雇用で守られる他の大企業であっても、やはりなんらかのコスト適正化の圧力はかかることになる。

「うちは原価と人件費でこれだけかかったので、○○円でお願いしますよ」

といっても、市場には他の安売り企業もあって、彼らと競争しないといけないからだ。

   だから、その他の企業は終身雇用という建前がありつつも、何らかの形で雇用調整し、総額で賃金をカットすることになる(下請けや非正規雇用の活用が主なツールだ)。

   ところが、ここでも東電という会社には、競争相手がないから適正化の圧力はかからない。結果として、仕事も住居も失った避難者や、時給いくらでカツカツの暮らしを送るフリーターから、電気代という形で合法的に搾取できるわけである。


   というわけで、庶民の皆さんはいろいろ苦しいと思うけれども、皆で頑張って東電様のために貢ぎましょう。民主党政権が会社清算も電力自由化もせずに公的資金投入しちゃったわけだから、しょうがないですよ。

「古き良き日本の文化」の正体はこんなもん

   という具合に、「労働者の権利を守れ」だの「古き良き日本の文化」だのベタベタ貼られたステッカーを剥がしてみると、中から出てくるのはこんなもんである。

   これは名前こそ違えども、かつての封建制度とまったく同じ、事実上の身分制度だろう。

   とはいえ、受験や就職活動という節目で頑張れば、上位身分に入るチャンスがあるのも事実だ。

   いい年こいた論客は右も左もバカだらけだが、そういう人生の節目だけ一生けん命に頑張って、後はまったりと手を抜く学生こそ、日本の民主主義の本質をもっともよく理解しているのかもしれない。

城 繁幸

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人事コンサルティング「Joe's Labo」代表。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。ブログ:Joe's Labo
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