グーグルには「社内哲学者」という役職がある

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   デイモン・ホロウィッツは、もともとAI(人工知能)の専門家であった。ある時プログラムについて考えていた彼は、どうしても越えられない壁があることを感じた。

「結局、人間の頭の中を理解することが必要なのではないか、私はそう思った。…そこで人間の思考の仕組み、言語の構造、意味の背景について考えるようになった」(「The Chronicle」ウェブ版2011年7月11日付けより)

とことん考えて生まれるイノベーション

   彼は大学に戻り、哲学を学んだ。その結果、

「コンピュータで数量解析ばかりしても、人間の幅広い認識活動を把握することはできないことを悟った。技術至上主義の世界観を捨てることで、まったく新しい発想が生まれるようになった」

   その後ホロウィッツが設立したアードヴァーク社は、多数の人間の知恵を結び付ける方式の新しい検索エンジンを開発した。グーグル社がその独創性に注目し、同社を買収。ホロウィッツはグーグルに「社内哲学者(インハウス・フィロソファー)」として入社した。

   これは、自分の頭で考え抜くことの大切さを教えてくれるエピソードだと思う。とことん考えることで発想が湧き、イノベーションが生まれる。

   何もグーグルや人工知能だけの問題ではない。現代はおよそどんなビジネスでも、ソフトウェアが雌雄を決する時代である。自動車や電機のような「製造業」だって例外ではない。

   アップル社の株式時価総額が25兆円あり、日本の大手電機メーカーがすべてその10分の1以下なのもソフトの力の差だ。物事を本質に立ち返ってじっくり考えることの重要性は、強調しすぎることはないだろう。

   西欧人からこんな風に言われることがある。

「日本人と話しても、その人がどういう主義主張なのか良くわからない。日本発で世界に通用するようなオリジナルな思想もないようだ。日本人は物事を深く考えることのない現実主義者なのか?」

   確かに多くの日本人は、自分の頭で考える習慣を持っていないようにみえる。大きな判断は他人にゆだね、それで結果的に誤ったら「自分が悪いのではなく、××のせいだ」と考える。

生きざまに影響与える製品を作るには

   これは逆に言うと、融通無碍の精神にあふれているとも言える。

   変化する状況への対応力は抜群だ。歴史の変換点にも上手に対応した。第二次大戦中に「鬼畜米英」と言っていたのが、戦後「アメリカ大好き」にすぐに代わった。

   明治維新で西欧文明を取り入れるのも早かった。これは和魂洋才と言われるもので、実利的なところのみを手っ取り早く取り入れて済ませた。西洋文明の本質についての理解は、置き去りにされたままとなった。

   しかし、われわれは西洋の社会システムに乗っかっているという現実がある。例えば、現在の法制度はすべて西洋からの輸入であり、そこには西欧の民主主義や自由主義、個人主義の思想が色濃く反映している。今の日本はこれらを字面のみで取り入れたために、社会の仕組みがいい加減なものになっているのではないか。

   日本人は、目標や方向性が与えられれば強いと言われる。

「円周率の桁数に挑戦する」
「世界最大の液晶ディスプレーを作る」

といった競争になると、がぜん張り切ったりする。カイゼンも得意だ。それはそれで良いが、もっと大きな視点によるオリジナルな目標や方向性も常に持ち合わせていることが大切だ。

   グーグル社は、「検索エンジンの究極の目的は、人々が本当に欲しているモノを察知して、その答えを与えること」だという。人々の生きざまにまで影響を与えるような製品を作るには、こういう大風呂敷も必要ではないか。

「もしも哲学がなかったとすれば、自分の考えに疑問を持ったり反駁したりせず、ただ流れに身をまかせ、見るもの聞くもの読むものを正しいと判断してしまうだろう」(プラトン『ソクラテスの弁明』より)

小田切 尚登

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小田切尚登
経済アナリスト。明治大学グローバル研究大学院兼任講師。バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバ等の外資系金融機関で株式アナリスト、投資銀行部門などを歴任した。近著に『欧米沈没』(マイナビ新書)
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