政府への「不満」の多さは「依存心」の裏返しである

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   世界中で、日本の政府ほど国民に低い評価を受けている政府も珍しい。しかし実は我が国は平均寿命、失業率の低さ、医療保険、教育水準、治安、経済力、個人資産の大きさ等々で世界トップクラスの国なのだ。その国の政府のどこがそんなに不満なのか。外国人は首をかしげることだろう。

   総理大臣が頻繁に交代するのが問題だ、という意見もあるが、民主主義が機能している証しだ、と言えなくもない。世界の指導者で最も長期政権なのは、リビアのカダフィ大佐の41年。イエメンのサレハ大統領の33年や、ジンバブエのムガベ大統領の31年などが続く。北朝鮮も「金王朝」が長年続いてきた。

   一般的には短期政権よりも長期政権のほうが、問題が多いのだ。それにそもそも国民自身が政府を、間接的にせよ次々に変えておいて「短期政権は良くない」はないだろう。

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「政府に頼れない時代」に生まれたソニー、ホンダ

   我が国のように言論の自由が保障され、政治家が民主的に選ばれる国において、政府は国民の鏡のような存在だ。

「国民は立派なのに政府はダメ」

ということはあり得ない。

   別に今の政府を擁護しようとは思わないが、マスコミや企業や公務員のレベルを考えれば、だいたいあんなものだという気がする。逆に言うと「この人たちに任せれば日本は必ず良くなる」というような政治家など、この国のどこにもいないだろう。

「こんな政府ではどうしようもない」

という人は多いが、ではどうしたいのか。「ならば政府などには頼らない」という人はめったにいない。「政府は国民のためにもっと働け」という声ばかりが聞こえる。これは、政府に対する依存心が高いことの裏返しだと思う。

   昔はそうではなかった。国が貧しかったこともあるが、今よりもむしろ資本主義が徹底していたと言ってよい。たとえば、戦前にはかなりの数の農民が、新天地を求めてブラジルやハワイなどに旅立っていった。日本に残っていては食べていけなかったからだ。

   また、戦後すぐの焼け野原の東京では「政府がなんとかしてくれる」などという期待などできなかったので、自分で必死に何とかして食べ物を確保するしかなかった。政府からの配給食糧だけを食べ、ヤミ米を拒否した判事が餓死した時代である。そしてその環境からソニーやホンダを筆頭にする新興企業が多数生まれ、我が国は奇跡の経済成長を遂げることになる。

甘えもたいがいにしないと、自分の足で立てなくなる

   今、多くの国民は政府に依存することに忙しい。明らかに政府に問題がある場合には責任を追及すべきだし、誤った政策を正すべきなのは当然だ。しかし、何かといえば「国が動かなければダメだ」の大合唱が全国津々浦々に響き渡るというのは、異常な光景だとはいえないだろうか(震災復興に本当に必要なお金は別である。念のため)。

   2011年5月31付の米ニューヨークタイムズは、日本で大規模な原発反対運動が起きないのは、地域が政府や電気事業者から支出される「補助金」や「公共事業」に依存している構造があるからと指摘している。この構造は国の至るところに見られる。

   国への依存心が、日本人から将来に真摯に向き合う姿勢を奪い、個人の生活に弊害をもたらしているように思えてならない。

   たとえば、これだけの低金利にもかかわらず、資産は銀行預金(と、せいぜいローンのついた住宅)だけ。株式や債券などを組み合わせたリスク分散をする人が極めて少ないのは、もはやありえないことだと思う。国が穴埋めしてくれない商品には、手を出さないということなのか。

   また、いつどうなるかもしれない会社に全面的に寄りかかり、中には勤め先の株式まで買う人もいる。こういう人は、会社は永遠に安泰で、何かあれば国が救うのは当然と思っているのか。

   政府に依存できる環境にあることは、ある意味素晴らしいことだ。人類史上類をみない高度福祉国家を作った日本人は、世界に誇れると思う。しかし、甘えもたいがいにしないと、自分の足で立つ力が弱まり、結局は危機が降りかかってくるということを、我々は肝に銘じておくべきだろう。

小田切 尚登

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小田切尚登
経済アナリスト。明治大学グローバル研究大学院兼任講師。バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバ等の外資系金融機関で株式アナリスト、投資銀行部門などを歴任した。近著に『欧米沈没』(マイナビ新書)
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