「天災による休業」なら給料は払わなくていいの?

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   会社員にとって、働かないと給料がもらえない「ノーワーク・ノーペイ」の原則は基本中の基本だ。しかし、不可抗力で会社が休みになってしまう場合もある。そのときの給料はどうなるのか。

   ある工場の総務担当は、天災に遭って工場を休みにしたが、給料の扱いについて本社の人事から言い渡されたことに違和感を抱いている。

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本社は「法的に問題ない」というのだが

――中堅メーカーの地方工場の総務です。天災の影響で、とりあえず1週間の休業を決めました。
   工場設備の一部が損壊したうえに、停電の影響を受けるおそれも高いからです。部品の調達や発注元の状況によっては、休業期間を延長せざるをえない可能性もあります。
   生産量も大きく影響を受けるので、急きょ予算の組み替えが必要なのですが、本社の人事に確認したところ、

「原因は天災ですから、休業中は従業員には給料を払わなくていいんですよ」
と言われました。
   説明によると、今回の措置は「使用者の責に帰さない事由による休業」、つまり会社の責任ではない不可抗力による休みなので、会社が従業員に休業を言い渡したとしても、給料はもちろん「休業手当」も支払う必要がないのだそうです。
   確かに、予算組み替えの上で人件費をどうカウントするか考えると、生産も売り上げも上がらない中で、人件費だけいつも通り計上すると収益が苦しくなります。
   「ノーワーク、ノーペイ」の原則に沿ったものですし、法的にも認められた措置であればそれでいいのかと思いつつ、従業員も災害の影響を受け、苦しい生活を送っているはずです。無給と伝えることで、強い反発を受けるような気もするのですが――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
有休が残っているなら「無給」では気の毒

   原料の調達不足などを理由に従業員を休ませる場合、その責任は使用者(会社)にあるとして給料の6割以上の「休業手当」を支払わなければなりません。しかし、天災などの不可抗力によって休みとする場合には支払いが免除されます。ご相談の件は、工場設備の損壊、停電、取引先との関係など複数の要素が絡み合っていますが、原因が天災という「使用者の責に帰さない事由」であるとして、休業手当の支払いは不要とする考えもあるかと思います(今回の震災の影響による計画停電の取扱いは厚生労働省から通達も出ました)。

   しかし、もし有給休暇の取得が進んでいないのであれば、会社の都合だけを押し付けるのは従業員が気の毒ですし、本社を東京に置く中堅企業なら災害に遭った工場だけで問題を処理させるのは冷たすぎます。できるだけ休業手当を支払うか、有給休暇で処理してあげた方がよいと思います。ただし、休業手当を支払うことで経営状態が悪化してしまう中小企業の場合は、この限りではありません。

臨床心理士・尾崎健一の視点
手当払えなければ「会社の状況」を伝え理解を求める

   資金に余裕のある会社であれば、有給休暇扱いにしてもよいでしょうが、現実問題として生産活動ができない状況では、休業手当を支払う余裕がない会社もあるのではないかと思います。問題は、今後の経営見通しが立ちそうもないのか、それとも影響は一時的で今後の頑張りで減少分を取り返していけるのか、さらには復興などを見据えて増産体制をとる必要が出てくるのかということです。

   会社の将来のためにも、従業員に対するケアはていねいに行っておくべきです。休業手当が支払えない場合であっても「法的に必要ない」と突っぱねるのではなく、会社の状況を説明し、雇用の確保を宣言して協力を求めるような形にした方がよいでしょう。業績が回復したときには何らかの上乗せを行う姿勢を示し、理解を求める方法も考えられます。給与以外でも支援できることがあれば行うなど、困ったときに助け合う姿勢を打ち出して、従業員の帰属意識を高めてもらいましょう。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
野崎大輔・尾崎健一:黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術
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