厚労省が「労働市場の流動化」に反対するわけ

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   昨年末、知人の一人から、勤めている会社を退職するというあいさつメールをもらった。ところが、先日その会社を訪ねると、彼は以前と変わらぬ様子で働いている。聞けば独立はしたものの、基本的に以前と同じ仕事を請け負っているのだという。

「やっていることは以前と変わらないが、勤務時間や勤務場所など、しばりが消えて効率的に働ける。なにより1割くらい手取りも増えた」

天引きし放題のサラリーマンは都合がいい

   なるほど。仮に彼の手取りを600万円、会社が負担している人件費(社会保険料等込み)を800万円とする。この場合、独立してもらって700万円払った方が、お互いにとってハッピーだ。いや、終身雇用のコストを負担しなくていいから、800万円払ったって会社は損とは思わないだろう。

   今後、彼がぼちぼち他の企業との取引も開拓していけば、あっという間に一千万くらいは超えるだろう。もちろん自分で社会保険料を払う必要があるが、国民年金なら月たったの1万6000円でいい。これからの日本は、各自が自分に合った働き方を考える時代になるだろうが、こういう個人請負型は一つの流れになると思われる。

   ところで、このことは、ある重要な事実を示唆している。

   厚労省は現状の雇用制度の見直しにきわめて否定的で、派遣業や有期雇用規制によって、これからも従来型の終身雇用制度を維持するとしている。その背後には恐らく、サラリーマンという従順でがっぽり天引きし放題な羊たちを、野に放つことへの恐怖があるのだろう。

   仮に労働市場が流動化し、フルタイムの正社員か、従来の非正規雇用かを各人が自由に選べるようになったとする(属人給から職務給になり、転職が不利にならないとする)。

   総合職サラリーマンの中には、上記の彼のように個人請負として独立し、より裁量のあるワークスタイルを選択するものが少なくないだろう。いや、もともと終身雇用の保護膜が薄い中小企業の正社員の多くは、2割近い厚生年金保険料の天引きを嫌い、雪崩を打って独立するかもしれない。

   つまり、月に10万近く貢いでくれていた物言わぬ羊たちが、突如牙をむき、月1万5000円ちょっとしか老人に貢いでくれなくなってしまうわけだ。

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「非正規の厚年加入条件緩和」も規定路線

   となると、現行の年金制度はもはや維持不可能だから、税方式、あるいはベーシックインカム等への移行が実現性を増し、最終的には厚労省の手を離れてしまう可能性が高い。

   彼らが終身雇用にしがみつく本当の理由はこれだろう。

   本来なら、世代間格差を是正し、制度の持続性を維持することで年金制度への信頼性を高めるべきなのに、そういうことには一切手をつけないまま、

「サラリーマンを縛りつけて絞れるだけ絞ってやろう」

という厚労省の姿勢には、あいた口がふさがらない。

   日本人を職場に縛りつけて年間30兆円以上もピンハネし続ける厚労省というのは、タコ部屋の大親分みたいなものだろう。

   たぶん、彼らはこれから、非正規雇用の厚生年金加入拡大を様々な形で打ち出してくるはずだ。その裏には「もっと若いのをタコ部屋に入れたい」という狙いがあるのだということは、おぼえておいて損はない。

城 繁幸

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人事コンサルティング「Joe's Labo」代表。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。ブログ:Joe's Labo
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