IT会社のA社長の元に、専門商社の社長を務めるB氏から相談がありました。おととし新卒採用した男性社員のC君が、明らかに仕事に身が入っていないようだったので、B社長が呼び出して注意しました。
しかしC君は耳を貸す様子もなかったので、B社長は就業規則を示し「誠実に職務を遂行するつもりがないなら、解雇もやむを得ないな」と言ったところ、「そんなもの見たことない」「入社するときには、そんなこと言っていなかった」と反論されたのだそうです。
「非常識だが、バカではない」
確かにB社長は、就業規則を全員に配布しているわけでもなく、総務のキャビネットに1冊置いたままでした。しかし、これまで社内で問題が起きたときには、就業規則を示して指摘すれば、誰もが改善したり処分を受け入れたりしたといいます。
しかし入社2年目のツワモノは、そんなものは見ていないから無効だと反論。周知が足りなかったのはよくなかったかもしれませんが、労働基準監督署にも届出をしているし、無効なはずがありません。
押し問答の末、C君は「僕は雇用契約書にサインはしましたが、それ以外のものは知りません」と言って席を立ったので、先輩経営者のA社長に話を聞きに来たわけです。
意外なことにA社長は、以前C君と同じような疑問を持ったことがありました。就業時間や休日、休暇、それに給料やボーナスについてしか書いていない1~2枚の紙だけでは、社員を働かせる根拠として足りないのではないか。
「C君は確かに非常識だが、あながちバカとも言い切れない。だって、就業規則は入社してからじゃないと見られないし、入社したって見せない会社だってある。そもそも、雇用契約書が薄っぺらすぎるんだよ、日本の会社は」
「ちゃんと働け、から書かないとダメだ」
A社長が考えたのは、雇用契約書に「就業規則」の情報なども盛り込むこと。現状では大まかなことしか書かずに「詳細は就業規則による」という注記で逃げていました。法的にはそれで十分かもしれませんが、C君のような人には通じません。
B社長が「どんなことを書くのですか」と聞いたところ、A社長はこう答えたそうです。
「会社の目標達成のために、上司の言うことを聞き、ちゃんと働いてくださいよ。給料は働きに対して支払うのであって、働きが悪かったら当然クビにするか辞めてもらいますよ――。まず、これくらいは分かりやすく書かないとなあ」
もう「あうんの呼吸」なんて通用しない。法律じゃなく、経営のために何が必要か、自分の頭で考える時代になったんだよ。そうだな、仕事に対する俺の考え方とか、詳しい福利厚生も含めて20頁くらいにまとめて、内定前にサインしてもらったほうがいいな・・・。
そうつぶやく言葉に、B社長は「本気なのか冗談なのか」と首をかしげたそうですが、A社長は至ってマジメな顔をしていたそうです。