メガネ販売の三愛(愛媛県今治市)のウェブサイトに、ちょっと変わったコラムが掲載されている。ある日、店を訪れた初老の男性から、掲示について「一言お願いがある」と言われたのだそうだ。
その内容は、「下さい」を「ください」に変えること。店の断り書きに書かれている「ご了承下さい」と、検査室に表示されている「お入り下さい」という表記は、ともに誤っているのだという。
使い分け「やっている人はやっている」
「下さい」と「ください」の使い分けは、一般的な国語辞典には書かれていないが、ビジネス文書や公用文の表記では、意識して行うことがあるようだ。
日本広報協会のウェブサイトのQ&Aを見ると、「飲み物をクダさい」といった実質動詞の場合は「下さい」と漢字書きにし、「お飲みクダさい」といった補助動詞の場合は「ください」と仮名書きにすると書かれている。
要するに、実質的にモノをもらう「くれ」の意味で使う場合は漢字、相手に動作を頼む意味で使う場合は仮名書きのようだ。
他人に行動をしてもらうときには、「下」という言葉をあえて避けるという意味かもしれない。しかし、いずれもしても相手に頼むのだから、そう大きく違わないような気もする。これを日本語の「奥深さ」と呼ぶべきか、「煩雑さ」というべきか。
ある会社の総務部門で働く女性に聞いたところ、社内外の文書では、ほとんど意識しておらず、「どちらかというと漢字の方が簡潔でよいと考えていた程度でしたね」ということだった。
別の会社の広報部門の女性も、「恥ずかしながら、使い分けの定義があることも知りませんでした」という。ただし、プレスリリースなどで「ください」という言葉を使って相手に頼むことはほとんどない。
なお、Googleで検索すると、正しく「ご注意ください」と仮名表記した大手金融機関のウェブサイトがヒットする。やはり、きちんと意識している人はしているようだ。
冒頭の初老の男性は、翌日再び店を訪れ、訂正された文字を確認し、「早速直していただき、どうもありがとうございました」と満足そうに微笑んで去っていったということだ。