将来のキャリアプランにつながる仕事でなくても、「とりあえず我慢して続ける意味がある」とする新人が過去最高という調査がありました。就職氷河期が背景にあるのでしょう。一方で、「このままこの会社にいてよいのか」と思い悩む人もいるようです。
これが本当に自分の適職なのか不安
――インターネットの広告代理店に入社して、1年半とちょっとの男です。先日上司から「お前、やる気あるのか?」と怒鳴られてしまいました。
仕事でミスしたわけではないのですが、指示されて作った提案書の出来がよくなかったことを、やる気と結びつけられて叱責されたのです。
正直言うと、最近仕事に身が入らなくなっているのは事実です。入社しばらくは、憧れていた会社に入れたことで、毎日が新鮮でした。日々慌しく、とにかく与えられた仕事をこなすだけで精一杯でした。
しかし半年ほど経って慣れてくると、このままで大丈夫かという気持ちが湧いてきました。自分が抱いてきた華やかなイメージとはかけ離れた、地味な仕事がほとんど。不況で以前より仕事も減っているようです。
入社前にやりたいとイメージしていたこともありましたが、クライアントとの関係で、企画に大きな制約を受けていることも見えてきました。
もちろん私はまだ新人同然で、雑用に毛が生えた程度のことしかしていません。しかし、先輩たちの仕事を見ていても、やっていることが大体分かってきましたし、そんなに大掛かりなことをしているようにも思えません。
「数年後の自分は、あんな感じの仕事をしているのか・・・」そう思うと、とても憂鬱な気持ちになります。今の仕事を続けていて、自分のキャリアはどうなるのか、これが自分の適職なのか。石の上にも3年といいますが、このまま悶々と働き続けるよりは、早めに転職した方がよいのではないかと思っています――
臨床心理士・尾崎健一の視点
仕事に対して抱く欲求・期待に向き合ってみる
私も数社の転職を経て、自分のしたいことを決めて独立しました。行動を起こさないまま自分探しに走ることは危険ですが、ときには自分の心に向かい合い、自分はいったい何がしたいのかを考えることは無駄ではないと思います。
仕事に対する満足度を高めたければ、自分が仕事に対してどんな欲求や期待を抱いているのか、整理しておくべきでしょう。米国の心理学者エドガー・シャインは、人が仕事を選ぶ基準となる欲求や価値観などを「キャリア・アンカー」と呼び、8つの要素で整理しています。例えば、
・自分の技能を発揮できる仕事に就きたいという「特定・専門」の欲求などです。
・自分のやり方で仕事を進めていきたい「自由・自律」の欲求
・新しいものを生み出したい「創意・創造」の欲求
・理想の社会を実現したい「奉仕・貢献」の欲求
これらの要素のうち、どれがどの程度強いのか、優先順位は人によって異なるものです。自分の欲求や価値観のバランスに合った仕事に就くことで、満足度が高まります。
社会保険労務士・野崎大輔の視点
今の職場で力をつけて他人の評価を受けてみる
一般論として、会社や仕事に慣れてくれば、まずいところが見えてきて不満が募るものです。入社1年半はそんな時期でもあります。私も同じ悩みを持ったことがありますが、他の会社に行けば明るい未来が待っているとは限りません。私が腰を据えて目の前の仕事を掘り下げようと思ったのは、「大きな仕事は小さな仕事の確実な積み重ねで出来ている」と気づいた4社目でした。
若いうちから自分のキャリアを意識することは、よいことです。悩みの底には、いまの仕事が自分の適職かどうか不安があるのでしょう。こらえ性がないように見えて、実は一生をかけて専門性を磨ける仕事に打ち込みたいという意欲があるのだと思います。
しかし、「適職は自分では分からない」という言葉もあります。まずはいまの会社で力をつけて、周囲の評価を受けてから自分の可能性を考えてみてもよいでしょう。目の前の仕事をいちどやり遂げてみてこそ、自分が何に向いているのか、自分がどこで通用するのが分かってくるものです。
(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。