内定取り消し問題 「くら寿司」にも同情の余地あり

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   くら寿司が入社前の内定者20人を、3月の研修段階になって辞退させた件が話題となっている。一応、会社側は「辞退はあくまでも自発的なものだ」と反論しているようだが、今春の段階で“自発的”に辞めざるを得ないような研修を実施した以上、それはやはり「辞退させた」とみるべきだ。

   少なくとも、会社側が何らかの事情で入社者数を削りたくて、ごりごりのリストラ研修を実施したというのが実情だろう。というわけで、個人的にはやっぱり会社が悪いと思う。

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外食や中小を「滑り止め」にする学生たち

   ただし、めちゃくちゃ悪いかというと、そんな気もしていなくて、むしろ企業側も被害者の一面もあると思う。この問題の根っこには、日本の労働市場の構造的歪みが潜んでいる。

   日本企業は、大手を頂点としたピラミッド型の身分制度を形成している。大手の中でもメディアや製造業は序列が上で、小売りや外食は大手であっても序列は高くない。大半の中小企業や新興企業は下の身分だ。給料はほぼこの序列に比例し、上の方の大企業であれば、政府も何かと支援してくれる。

   学生もこうした序列の存在は肌で感じているから、人気はたいてい大手に集中する。今年もなんだかんだ言われているが、従業員数500人未満の企業に限れば、求人数のほうが応募人数を上回っている状況だ。

   つまり、学生は上列上位の大手を軸に据えて就職活動するものの、競争倍率が高い結果、下の企業に流れてくるという構図が見える。

   加えて、企業と学生は契約において対等とは言えない。会社が合法的に内定を取り消すことは原則認められないが、学生は電話一本、メール一本で辞退できる(それすらしない学生もいる)。

   結果、何が起こるか。みんなが大手を目指して就職活動し、中小を滑り止めにする。つまり、序列が下の企業ほど他社の就職活動が進むにつれ、ものすごい数の内定辞退者が続出することになる。

   それを見越した上で、下の企業は目標数より多めに内定を出しておかねばならない。はっきりいって、外食は人気がなく、内定者の過半数が辞退なんてことは珍しくない。それを見込んで多めに内定を出しておいたら、

「不況が深刻で、思いのほか歩留まりが高くなってしまった」

というのが、おそらく今回の騒動の真相だろう。

やっぱり解雇の金銭解決ルールが必要

   落ち目とはいえ、テレビ局なんて序列最上位クラスで、辞退される方じゃなくてさせる側である。内定者の票読みなんてしなくて良いから楽チンだろう。

   そういう上流階級のお公家様が、

「いやあホント外食ってひどいですねえ」

としか伝えないのは、ちょっと洞察が浅すぎると思う。

   では、彼らは何を伝えるべきか。それは、上記の構造的な問題だ。雇用契約解除はもちろん、内定取り消しすら認められない硬直した社会で、すべてのリスクが立場の弱い企業と学生に集中しているという現実だ。

   仮に内定取り消しを本気で禁じるのなら、内定辞退も禁じるべきだろう。でもそれはちょっと現実的ではない。よって、いくらかの補償金で合法的に雇用契約を解除できるルールを明文化すべきだ。

   今の日本の雇用法制を一言でいえば、「ミスの許されないパーフェクトな世界」だ。だから、企業は採用する正社員を絞り込む。学生もできるだけ定年まで潰れなそうな大手を選ぶ。そして、経済はさらに停滞することになる。

   今回のような騒動は、それでもミスが完全にはなくせないことを示している。

城 繁幸

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人事コンサルティング「Joe's Labo」代表。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。ブログ:Joe's Labo
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