前回、そこそこ安定した生活を送れているにもかかわらず、結婚する意欲に欠ける「置き物系男子」について書いた。据え膳されないと食べられない、要するに猫でいうとペルシャ猫みたいな男のことなのだが、結構反響があったようなので少しフォローしておきたい。
5歳年上と結婚した置き物系
僕の知人には何人も置き物系がいるのだが、中でももっとも印象に残っているのは、A君という同い年の知人だ。
教科書の予習と復習だけで人生の荒波をよけきってきた(いや、荒波の無いコースを流されてきたというべきか)男で、もう真面目を絵に描いたような人間である。一流国立大を出て、大手企業に入社。以来、転職も休職もせず、ずっと真面目にそこの本社で働き続けている。
「仕事面白い?」と聞くと「いや、つまんない」と返すも、「じゃ転職はしないの?」と聞いても「…いや、しない…」としか言えないようなつまんない男である。犬や猫だってつまんなかったら自分で動くだろうに。まさに置き物と呼ばれる所以である。
さて、そのA君であるが、三十路手前で5歳年上のお姉さまと結婚した。結婚しようか?という問いに「えええ、どうしよう……」とやっぱり迷ったそうだが、
「まさかイヤなの?」
と凄まれて「します」と言ったそうだ。僕の知る限り、プロポーズが「まさかイヤなの?」というのは、後にも先にも彼だけである。
かくしてA君は見事に捕食されたわけだが、喰われただけではすまなかった。直後に35年ローンで一戸建てまで買わされ、お小遣い制も導入されてほとんど飲みにも付き合えなくなってしまった。
当時、僕らの間では、誰だれが転職してマネージャーになったとか、ベンチャーに転職して事業責任者になったとかいう話題が多かったが、
「A君は立派な鵜になった」
と話していたのをよくおぼえている。
腕の良いパートナーで真価を発揮
さて、そんなA君も結婚後10年が経とうとしている。読者の中には、きっとA君をバカにし、さげすむ人もいるはずだ。「甲斐性なしのヘタレだから、そんなつまらない人生になるのだ」と。
ところが、傍から見ても、A君はとっても幸せそうである。考えて見えれば当然だが、彼のような受動的なタイプにとっては、きっちり人生設計してくれるパートナーはありがたい存在だ。
マイホームだって、それが一番合理的だと踏んだから買ったわけで、独身だったら彼の無計画性から考えて、今も小汚いワンルームに年100万くらい貢ぎ続けていただろう。
そもそも、管理されるのが本当に嫌いだったら、私立の中高一貫校で受験勉強に精を出し、一流大に進学なんてしてないだろう。就職先まで親に相談し、内定先の中から選んでもらうなんてこともしないだろう。
それでも「俺は独身貴族だ」という人は、貴族らしく傲岸不遜に生きるといい。それができないという人は、いい加減つまんない意地なんて張らずに、腕の良い鵜飼を見つけて飼ってもらいなさい。
城 繁幸