「ツイッター中毒」の社員をクビにできるのか

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   日本国内での利用者が約1000万人に達したというミニブログサービス「ツイッター」。利用者の素顔があらわれやすいのが魅力で、仕事とプライベートの境目なく使っている人も少なくない。しかし職場の中には、それをこころよく思わない人もいる。

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部長に叱られてもケータイから「つぶやき」

――卸売業の人事です。営業課長から、部下である30代男性のA君について相談を受けました。なんでも彼はいま「ツイッター」にはまっており、そのことで最近、部長から大目玉を食らってしまったのだそうです。
   彼は中堅の営業マンで、前職のIT企業での経験を活かし、営業をしながらクライアントの小売店に対してマーケティング手法やITツールのアドバイスをして好評を得ていました。その情報収集の過程でツイッターに出会ったようです。
   ところが最近、A君はツイッターに夢中になりすぎて、仕事中も会社のパソコンから「つぶやき」をさかんに投稿していることが判明。そのせいかどうかは分かりませんが、ここ数カ月は営業成績も芳しくなく、周囲がやきもきしていたところでした。
   あるとき、同僚がパソコンを覗き込むと、A君は誇らしげに、

「いやあ、この前ようやくフォロワーが3000人を突破してさ。何か発信すると、誰かしらすぐに反応してくるから面白いんだよね。お前もやってみたら?」
と言われたとのこと。彼の勤務態度が気になっていた同僚は、そのことを営業部長に報告すると、部長は「成績も上がらんくせに。いますぐツイッターをやめさせろ!こんどやったら、パソコン取り上げるぞ」とカンカンに。
   しかしA君は、会社からの書き込みはやめたものの、外出先から携帯電話でのつぶやきをやめません。同僚によると、部長の叱責以来、会社の悪口まで書き込むようになっているのだそうです。
   部長は「もし続けているたら即刻解雇だ」と怒りが収まらないよう。しかし、携帯電話は私物ですし、業務時間以外でも、どこまで禁止できるものなのでしょうか。解雇も簡単にできないと思うのですが――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
最大のリスクは情報漏えいや信用失墜

   A君の行為は職務専念義務に違反しており、厳しい処分が可能でしょう。注意後も続けており、取引先などにフォローされた状態で会社や上司の悪口を書いていることが予想されるので、懲戒解雇または諭旨解雇という処分もありうるかもしれません。ツイッターが原因で解雇された人も実際にいるようです。

   処分より先行すべきことは、投稿によって会社の情報が漏洩したり、会社の信用が損なわれたりするのを防ぐことです。このケースでは、A君のアカウントと投稿内容を確認し、会社の不利益になる情報がないかチェックすべきです。問題となる情報があれば削除させるなどの手を打つ必要があります。

   ツイッターの利用をどこまで許容するかは、会社の方針によって異なるでしょう。就業規則以外に、ブログ等を含めたツールの利用可否や運営ルールを「ソーシャルメディア・ポリシー」として定め、社内外に周知する会社もあります。日本IBMなどでは、実名での利用を奨励し、自己管理を促しているのだそうです。

臨床心理士・尾崎健一の視点
ツイッターには「中毒性」がある

   A君は、いわゆるギャンブル依存症と同じような「ツイッター中毒」の状態になっているのかもしれません。当たり(反応)が来るかもしれないが、いつどのくらい来るのか分からないという「不規則な報酬」が与えられている状態は、規則的に必ず当たりが出る状態よりも中毒性を高めます。リプライ(返信)やリツイート(再投稿)という形で即時的な反応が得られたり、フォロワー数という数値的な反応が出ることは、自尊心をも刺激します。A君は「営業中にパチンコ屋に入ってはいけない」と同じような種類の指導が必要になっているといえるでしょう。

   気をつけなければならないのは、中毒状態を放置しておくと、反応を増やすために投稿の内容をどんどん誇張したりウソをついたり、書いてはいけないことを書くことが止められなくなるおそれがあることです。野崎さんが指摘するように、投稿で会社や顧客、取引先に迷惑をかけ、信用を落とすことが会社として最も怖いことです。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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