会社の恒例行事の中には、当初の趣旨があいまいになっているものもある。それを続けるのも社風や伝統という考えもあるが、やめても何の問題もなかった場合もあるだろう。ある会社では、若手から朝礼の廃止を提言された課長が対応に悩んでいる。
「持ち回りのあいさつも大変だし」
――印刷業の営業課長です。当部では毎日、始業時に朝礼を行っています。
月曜日は部長のあいさつの後、その週の予定を知らせ、経営理念の唱和をします。その他の曜日は、メンバー持ち回りのあいさつと、課単位の業務内容の確認などを行います。
この朝礼について、入社3年目のA君から疑問を呈されました。彼の言い分はこうです。
「そろそろ朝礼はやめませんか? 持ち回りのあいさつを考えるのは大変だし、わざわざ全員が集まってやることはないですよね」朝礼にかかる時間は、毎日10分から15分程度。A君は「連絡事項があるならメールで済みますよね」と言います。確かに、最近の朝礼の内容は代わり映えがせず、参加者のやる気も高いとはいえないかもしれません。
残業時間の削減も厳しく進めている中で、朝の忙しい時間を有効に使いたいという気持ちも分かります。ただ、入社以来ずっと続いていることでもあり、自分にとって朝礼は当たり前のことになっています。
これまで部内でも、朝礼をやめようという話は出たことはなく、部長にもどう話したらよいのか思いつきません。かといって、A君の言うことにも一理あるような気もします。朝礼は、もう古いんでしょうかね――
臨床心理士・尾崎健一の視点
毎日顔を合わせることで分かることもある
携帯電話やメールなど便利なツールが当たり前の時代に育った若者には、面と向かって何かを伝えたりすることが非効率に思われるのかもしれません。しかし、人が毎日集まることで生じるもの、分かることがあるのも事実です。
まず、場所や時間の共有によって、心理的に集団としての一体感を高められることが挙げられます。「一体感なんて胡散臭い」という若者も、サッカーW杯で本田選手が「勝因はチームの一体感」と言うのを聞けば、そうなのかなと思うのではないでしょうか。言葉で説明するのは難しいので、古いと言われようが参加者に効果を感じてもらえるよう進めるしかありません。
もうひとつは、メンバーの変化を感じやすいということです。組織をマネジメントする上では、仕事の状況とともに、人がどういう状態にあるのか、顔色や表情、服装や行動などから感じ取ることは重要です。いずれにしろ、管理職が必要だと思えば業務の一環として、自信を持って進めればよいと思います。
社会保険労務士・野崎大輔の視点
目的に合っていないものは何でも見直すべき
これまで当たり前だと思って続けてきたことは、なかなか変えにくいものです。しかし業務環境は大きく変わっており、組織で何をするのか決定権のある管理職は、惰性でやることは避けるべきです。目的を再確認し、部下の意見を取り入れて改善していくことも必要でしょう。
尾崎さんがいうように、朝礼を有効に使う道はいろいろあります。持ち回りのあいさつも、モチベーションの高揚やコミュニケーションのきっかけとして代えがたいものです。一方で、メールに置き換えられる部分の見直しは、ためらうことはないと思います。
ただ、これまで続いてきたことには、明確に意識していなかった効果や意味があったりするのも事実です。「前例打破」を旗頭に従来やっていたことを熟考せずにやめてしまうと、後になって弊害が起こることが往々にしてあります。まずは朝礼の時間を短縮したり、回数を減らすなどして、効果を確認しながら徐々に見直していく方が安全だと思います。
(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。