ユニクロが、2年後の新入社員の3分の2を外国人にするそうだ。楽天も社内公用語を英語にするなど、成長する日本企業はグローバル化を進めている。ある会社では外国人従業員が増えたことで、社内にあつれきが生まれているという。
「時間をずらせ」「できない」で押し問答
――中堅メーカーの工場長です。わが社ではコスト競争力を高めるため、地方に工業団地を建て、多くの外国人に働いてもらっています。その数はここ数年で急速に増え、いまでは工員の約4割を占めるまでになりました。
彼らの中には特定の宗教を信仰していることを理由に、食べ物や食事の時間について他の従業員と別メニューを設けている人たちがいます。また、1日数回の「お祈りの時間」を取っている人たちもいます。
しかし現場の日本人従業員の中には、彼らの「勝手な行動」に不満を募らせている人もいるようです。ある日、いつものように大勢の外国人が「お祈り」のためにゾロゾロ退室していくと、グループ長が慌てて止めました。
「今日は4時までに取引先のクレームに対応しなきゃならないんだ。お祈りの時間を少しずらしてくれないか?」リーダー格の外国人が「それはできない。時間は変えられない」と言って押し問答になりました。結局、お祈りは採用時に人事から認められた権利ということで、グループ長は別のグループから人をかき集めて対応せざるを得ませんでした。
対応に駆り出された人たちからは「なんでお祈りの穴埋めをさせられなきゃならないの?」という声が上がる一方で、お祈りから帰ってきた外国人たちは「仕事中にタバコ吸いに行く人を先に注意した方がいい」と反論します。
当面、外国人従業員の数は減らないと思いますが、私自身が初めて遭遇するトラブルなので、これから何が起こるのか気が気でなりません――
臨床心理士・尾崎健一の視点
従業員の「多様性」を活かせる組織風土づくりを
お祈りの時間は変えられないことを前提に、緊急時の対応ルールを決め、現場で徹底せざるをえないでしょう。いま、多くのメーカーが重点市場を海外に定めています。国際競争力を確保するためには、製造拠点を海外に移したり、国内でも外国人労働者を増やしたりすることが欠かせず、今後もこの流れは続くと思われます。
であれば、人材のマネジメントも「文化の多様性」を前提としたものに変えていく必要があります。均質で画一的な人材は、これまで日本の製造業の強みのひとつでしたが、日本人の中でも労働に対するスタンスは多様化しています。
まずは文化による習慣の違いを許容するよう従業員に呼びかけ、考え方の違いによる意見を積極的に聞き取りながら、コンセンサス(共通認識)を作っていくことが重要です。そのやり取りの中から新たな発想を生み出せる組織風土を作ることも、国際競争力を高める要素のひとつでしょう。
社会保険労務士・野崎大輔の視点
多様性により生じる「不公平感」に気をつける
今回のケースで日本人従業員たちが、お祈りの時間に反発した裏側には、多様性を認められなかったからではなく、「不公平感」があったのかもしれません。多様性を認めることで生じる不公平感を、何らかのルールで解消することが必要でしょう。「俺たちが仕事しているのに、彼らはお祈りしている」という小さな不公平感が、大きな不満のきっかけになっているおそれもあります。例えば、お祈りの時間にノーワーク・ノーペイの原則を厳格に適用し、労働時間から控除することで、周囲に「お祈りは無給だからしかたがない」と思わせる効果があるかもしれません。
しかし実際に控除に踏み切れば、「なぜ日本人がタバコを吸っている時間は、労働時間から控除されないんですか」と反論を受けることは想像に難くありません。そのときに「外国人は生意気言うな。俺たちのタバコはいいんだ」と非合理的な説明をしても、外国人は納得しないでしょう。
(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。