硬直した日本には「椅子の奪い合い」が足りない

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   雇用流動化の話をすると、たまに、

「それでは椅子の奪い合いになるだけではないか」

というような人がいる。いや、そうなんですよ、日本人同士、椅子の奪い合いをさせるのが目的なんですけど、何か問題でも? 今の日本に絶対的に足りないものは、バラマキでも規制強化でもなく、椅子の奪い合いなのだ。

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「日本式の方が人に優しい」とは言い切れない

   たとえば米国では、不況になると逆に労働生産性は上昇する。理由は簡単で、不採算事業を整理するため、全体の生産性は上昇するわけだ。当然、リストラされる労働者も出るが、彼らは新しい職を得るために奮起し、また新たな競争を始めることになる。

   この一連の流れこそが経済に新陳代謝をもたらし、経済成長をもたらすものだ。

   一方の日本では、正規雇用の規制が強すぎて、こういった新陳代謝はなかなか進まない。大企業なんて、過去10年以上一度として黒字化してないし今後もしないであろう事業部がゴロゴロしている。本音ではみんな無理だとわかっていても、手の着けようがないから抱え込んでいるわけだ。中には、惰性で新人の配属なんてやっているところもあるから恐ろしい。

   当然、ツケはみんなで少しずつ負担することになる。ボーナスや昇給がじわじわ抑制されるから消費も落ち込むし、設備投資も抑えられるから中長期の業績も伸び悩む。こちらは誰かを切り捨てるかわりに、皆で痛みを分かち合っていると言えなくもない。

   なんてことをいうと、

「みなで分かち合う方がいいに決まってるわ!!」

と思う人もいるだろうが、ちょっと待ってほしい。実は、(1年以上失業している)長期失業者の割合は、日本の方がアメリカの3倍も高いのだ。

   こうなってしまう理由は明らかで、要するに労働市場が硬直的だと新しい求人も増えないから、一度レールから落ちてしまうと徹底的に排除されてしまうわけだ。

   そう考えると、必ずしも日本式の方が人に優しいとは言い切れない。むしろ本当の弱者にだけ負担を押し付けて、そこそこ以上に貰っている連中は知らんぷりしているだけとも言える。

「失われた15年」を記録更新し続ける気か

   さて、この両社会、他にも決定的な違いが一つある。どちらも、歯を食いしばって頑張っている人はいる。でも、その中身は全然違う。アメリカの場合は職を得ようという頑張りであり、ゴールは再就職というとても前向きなものだ。

   一方、日本のそれは、

「嵐が過ぎ去るまで皆で我慢しよう」

という他人任せの風頼みであり、それ自体は明らかに非生産的なものだ。

   いや、不況という嵐が一時的なものなら、それも悪くはないだろう。だがもし、それがずっと続いたとしたらどうだろう。

   少なくともこの十数年間は、ずっとそんな感じで我慢比べを続けたあげく、90年代前半よりもずっと状況は悪くなってしまった。逃げ延びることが出来たのは50代以上の中高年正社員だけで、元祖ロスジェネはもう30代半ばである。

   失われた15年を教訓とするか。それとも、失われた20年、30年と記録更新し続けるか。そろそろ日本人全体が広い視野を持つべき時が来ているのではないか。

「課長になる方法を教えてください」

なんて人は多いけど、乗っている船が沈んじゃったら意味無いからね。

城 繁幸

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人事コンサルティング「Joe's Labo」代表。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。ブログ:Joe's Labo
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