先日、リクルート社の友人から独立の挨拶状が届いた。だいたい年に5、6通はこの手の挨拶状をもらう。本当に人が良く独立する会社だと思う。それも優秀な人ほど飛び出している気がする。
この会社、年功序列的要素がまったくなく、処遇はほぼ半年ごとに見直される。「45歳以降に出世しますよ」なんてことが無い分、20代から1千万くらい稼ぐことも可能だ。
といって、過激に中高年の首切りをしているわけでもない。ある程度の年齢になると第一線や主流を外され、バックオフィスや間接部門に回されるだけだ。早期退職を優遇する制度もいくつかあって、独立を促すようになっている。この会社が「人材輩出企業」と呼ばれるのはこれが理由だ。
定年まで同じ場所で働き続けたい人にとってはともかく、少々きつくてもより広い場で活躍したいと願っている人間にとっては、キャリアを積める良い企業だと思う。はっきりいうと、今どき他の大手企業なんかに入っても、安月給で一生こき使われるのがオチである。
新陳代謝の悪い組織は「R25」を出せない
さて、ここで一つ疑問がわく。なぜ同社だけは人材の流動化に積極的なのだろうか。他の日本企業にも早期退職制度はあるが、普通の企業なら、最も戦力となる中堅社員は手放したがらない。優秀な人材なら逆に昇給させてでも引き留めようとするはずだ。
答えは組織の新陳代謝にある。R25のような無料誌も、リクナビのようなWebツールも、言いだしっぺはすべてリクルートだ。こういう新サービスは、ともすれば自らが手がけてきた既存サービスと食い合うわけで、新陳代謝というのはその点を指している。
以前、某紙のデスクが「R25のような企画はうちにもあったが、出せなかった」と嘆いていたが、それはそうだろう。30年かけて既存の流通に乗せる形で売り上げてきた人間が権限を握る組織で、そういった新たな試みはなかなか生まれない。いや、若手の間には生まれることもあるが、実行はされない。
要するに、一番最初にキノコの生えている場所を見つけ出すためには、ある程度人材を流出させてでも、新陳代謝させた方がトクだということだ。
それにしても、35歳というのは実に面白い。キャリアに一区切りつけて外に飛び出す人間がいる一方で、いまだ大企業でかばん持ち、資料作成なんてやってる同期がいるのも事実だ。
たまに同窓会などでそういうメンツが遭遇すると、なんだかとても不思議な気がする。「人は環境によって育つ」とはよく言うが、社会人になって最初の10年はもっとも重要な節目の時期だと思う。
どちらが幸せな人生なのかは、三十路半ばではまだわからない。今のところ、キノコを探しに森の奥まで分け入って遭難した人間は知らないが、「寄らば大樹」狙いで木陰で休んでいるうちに、どんどん日陰が少なくなったと嘆いている人間は数え切れないほどに知っている。
城 繁幸