どう対応する? 部下の「ミス隠ぺい」で問題拡大

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   米大統領ワシントンの「桜の木」のエピソードにもあるように、間違ったことは正直に知らせた方が好感度は上がるものだ。しかし、それを知らせることで大騒ぎが起きそうなときには、なかなか言い出せないこともある。

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部下の「早期報告」がされず課長激怒

――システム開発会社の人事担当です。開発部の課長から相談が来ています。入社3年目のA君が起こした仕事のミスで、部内が混乱しているそうです。ミスの芽となるボタンの掛け違いは、3ヶ月ほど前から生じていたようなのですが、適切に対処していなかったために、プロジェクト全体に影響が出てしまいました。
   課長は日頃から、部下に対して、
「人は大なり小なりミスをするもの。仕事をしていく上で仕方のないことだ。自分でリカバーできなくなる前に先輩や上司に相談するように」
と繰り返し言っているそうです。なので、今回起こったことにショックを受けていて、A君を「とても裏切られた」と叱責したそうです。そして「彼はうちの部署には置いておけない。他の部署に異動させてほしい」といいます。
   A君も落ち込んでいるようなので、呼んで話を聞くと大変反省しています。なぜすぐ課長に報告しなかったのかと聞くと、
「自分で対応できるし、対応しなければならないと思った」
とだけ言います。
   課長は、A君はプライドが高すぎるから他人の言うことを聞かない、学習能力がない、他の部下に被害が及ぶから一緒に仕事をさせられない、と主張します。A君は大学院卒で、技術の知識も豊富なので、会社は将来を期待し、しばらく開発以外に任せることを想定していませんでした。今後どう扱ったらよいのでしょうか――

臨床心理士・尾崎健一の視点
課長側の「原因」について考える

   A君への指導については野崎さんにお任せして、私は課長への指導という視点からコメントします。課長は部下たちに、日頃から「ミスは仕方のないこと」と言っているそうですが、実際にミスが発覚したときに、それを理由に人事考課を大幅に下げたり、異動させたりした過去がないでしょうか。そのような上司の言葉を、部下は信用しません。また、叱責しながら「上司や先輩に相談しろ」と言っても、部下には「報告すれば怒鳴られる」としか伝わりません。同僚の面前で叱られた人がいるなら、なおさらです。人は言う内容よりも、言う態度や言い方の意味を重視するものです。

   「ミスをしても早いうちに取り返せば問題にならないし、その程度のことは誰しもある」という真意を、部下に納得させるためには、相手の言い分をよく聴き、言う内容と言い方や雰囲気が一致した伝え方をすることが大切です。課長のコミュニケーションに、そのような問題がないか、確認し指導してください。

社会保険労務士・野崎大輔の視点
「仕事」と「人」の両面で問題に迫る

   懲罰的な異動を考える前に、今回起きた問題の原因はどこにあるのかを確認すべきでしょう。ひとつ目は仕事の進め方の問題で、必要であれば一定期間はマンツーマンで指導します。OJTだけでは不足していたことがあるかもしれません。ふたつ目は、A君自身の悩みやモチベーション面の問題で、これに迫ることは再発防止策になるし、彼の成長にもつながります。

   理想の上司の1位は「人格に優れた人」という新入社員アンケートもあります。甘やかし過ぎはいけませんが、若い人たちは信頼できる上司とコミュニケーションを取りたがっています。課長には、A君と落ち着いて話し合ってもらうべきですが、今回は課長が興奮しているようなので、人事担当やカウンセラーが面談してもよいかもしれません。リクルート社では、元取締役などが「トレーナー」となって、定期的に面談を行っているそうですが、こういうコミュニケーションは、他社でも見習うとよいと思います。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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