無駄な「ブラック会社探し」はもうやめよう

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   就職を控えた学生の間で、ブラック企業探しが流行し、中には流されてしまう人もいるらしい。残業の多い会社や満足に休暇も取れない会社のことを指しているようだ。

   僕自身、「残業の多い会社はどこですか?」なんて質問はよく受ける。まあ、いまどき残業なんてやりたくないという気持ちはわからんでもない。

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すべては終身雇用を守るための副産物だ

   だが、はっきりいってみんな甘い。甘すぎる。そんなのブラックでもなんでもなくて、日本企業なら当たり前の話なのだ。

「フランスやドイツより年間300時間程度は長時間労働で、有給休暇も消費せず、辞令一枚で全国転勤」

というのは、日本が世界に誇るカルチャーである。

   というわけで、就職するなら「どこがブラックなのかな?」なんて心配なんてせず、むしろブラックぶりを楽しむくらいの覚悟でいるといい。というか、そうじゃないと出世なんてできませんから。

   とはいえ、話がここで終わってしまうのもなんなので、サラリーマン=ブラックな理由くらいは述べておこう。

   日本は今でも終身雇用が建前の国である。いつ潰れるかわからないような中小の下請け企業ならともかく、普通の会社では解雇なんて不祥事でも起こさない限りは行われない。もちろん、こういう楽ちんなシステムを維持するためには、それなりの工夫が必要だ。

   まず、一定の残業は大前提だ。新規採用の代わりに残業でカバーしておけば、不況時に残業カットで人件費を抑えられる。有給休暇が取れないのも理由は同じだ。

   全国転勤なんて制度があるのは日本だけだが、これも終身雇用を維持するためのものだ。つまり、人事部がハローワークの代わりに社内の空きポストを見つけ、再就職の斡旋をしているようなものなのだ。

   であるため、どんな大手優良企業であろうと、いや、むしろ(律儀に終身雇用を守ろうとするはずだから)そういった企業ほど、残業も転勤も有給取得制限も確実に存在するし、雰囲気的に文句は言えない。

年俸制の企業で耐える精神力があるか

   たまに、日本企業の労組が「組合員の長時間残業や転勤を黙認している」といって非難する人もいるが、ちょっと違う。すべては終身雇用システムを守るための、やむを得ない副産物なのだ。雇用と労働者の権利をバーターで取引していると考えればいい。

   労働者が個人で権利を行使できるようにするには、この取引をなくすしかない。「事業所をたたむ時に社員を解雇でき、仕事が減ったら人員を減らせるような制度」に変えるわけだ。

   だが、残念ながら今のところこういったアイデアは政治家の頭の中には存在しないので、滅私奉公はとうぶん続くはずである。

   たまに「勇気を持って拒否できないんですか?」という質問も受けるけど、そんなこと主張して村八分に耐えるだけの強靭な精神力があるなら、最初から年俸制の企業に行って頑張ることをおススメする。

   ところで、真のブラック企業とは何だろうか。それは上記のロジックからすれば明らかだろう。最初から終身雇用を守るつもりも、成果に応じた年俸を上乗せする気もなく、長時間残業が当たり前で有給も取れない会社のことだ。

   新卒の時点でそういう会社に遭遇することは滅多にないし、入ったら入ったで何年か修行して転職すればよいだけの話なので、入る前からあれこれ心配する必要は無い。最悪なのは右往左往した挙句、内定無しで卒業してしまうことだというのはおぼえておくといい。

城 繁幸

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人事コンサルティング「Joe's Labo」代表。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。ブログ:Joe's Labo
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