新年にあたり「今年はこんなスキルを身につけたい」と目標を立てている人もいるだろう。仕事全般に使えるスキルがあれば便利だ。IT企業のグーグルの面接試験には「フェルミ推定」という問題が出るらしいが、それはどんな問題で、それを解くにはどんなスキルが必要なのだろうか。
「どの職種でもフェルミ推定系のお題は出ますね」
2010年1月2日の午前1時すぎ、2ちゃんねるに「グーグルで働いてるけど何か質問ある?」というスレッドが立った。スレ主はグーグルのマーケティング職に勤務し、「嵐」のファン。採用の手続きについて詳細に答えており、「本物」を感じさせる。さまざまな質問に対し、
「本をたくさん読んで、たくさんアウトプットすること」
「民主主義、特に現行の間接民主主義は再発明が必要だと思いますね」
「アイディアなんてみんな思いつきます。・・・結局実行する力がすべてなんです」
など、聡明さを感じさせる回答を次々に繰り出し、まとめサイトには1500件もの「はてなブックマーク」が付いている。この中で、グーグルの採用試験について言及している箇所があった。
「エンジニア採用ではないですが、基本的にどの職種でもフェルミ推定系のお題は出ますね」
この一言が効いたのか、2007年12月に出版された『地頭力を鍛える 問題解決に活かす「フェルミ推定」』という本がアマゾンで順位を上昇させ、版元の東洋経済新報社の出版物のトップに上がっている(1月4日現在)。
フェルミ推定とは「日本に蚊は何匹くらいいるか」といった、実際に調査して把握するのが難しい問題を、いくつかの手掛かりを元に論理的に推論し、短時間で概算すること。フェルミとは、この手の問題を得意としていた物理学者の名前だそうだ。
実際にフェルミが学生に出したといわれているのは「シカゴにはピアノの調律師が何人いるか」という問題。これを解くために、フェルミは「シカゴの人口は300万人」「ピアノを保有している世帯は1割」「調律師が1日に調律するピアノの台数は3つ」などと仮定して、130人程度という数字を出している。
万能ではないが発想の柔軟性やスピードを見るには使える
フェルミ推定は、コンサルティング会社や外資系企業などの面接試験で用いられることがあるという。実際、ネット上には「スクールバスにゴルフボールは何個入るか?」など、グーグルで過去に出されたという試験問題が見られる。
ビジネスでも、新規市場規模の見込みを立てるときに、前提となるいくつかの仮説を掛け合わせて算出する。分かっていることから分からないことをひねり出すスキルと言えるだろう。なるほど、この力をつけることができれば、会社でも一目置かれるかも――。そこで中堅コンサルティング会社の元人事担当者に話を聞くと、「実際のビジネスでは万能ではないですよ」という答えが返ってきた。
彼が言うには、フェルミ推定のような論法は、証明が困難なことに使われるので、自分の都合のよいロジックを使って説得するときに使われることが少なくないという。例えば、経営者が「事業計画書」を元に投資家に投資を呼びかけたり、官僚が審議会の答申を元に予算を確保したりするとき、など。
「前提となる仮説の確かさが度外視されて、利害関係者にとって都合の良い結論にばかり目が行ってしまうのです。注意して使わないと、大ボラ吹きになりますよ」
また、彼は「分かりやすい話が好きな人は、騙されないように警戒すべきです。こういう論法に憧れる人が、罠にはまりやすいのです」と釘を刺す。実際のコンサルティングにおいては、完全な調査が困難でも、ポイントを突いた少しの予備調査で魅力的な「机上の空論」が崩れてしまうことも少なくないという。
ただ、どのような予備調査が必要なのかを導くにも、おおまかな仮説のロジックが必要だ。仮説の精度を上げる慎重さを兼ね備えられれば、フェルミ推定のような思考を柔軟に迅速にできる人は、ビジネスでも面白い発想ができる可能性があると言えそうだ。