不況の中、就職先が見つからない人が多い。父親が会社社長で、取引先に対して大きな影響力を持っている、なんていう状況があったら、やっぱり頼んでしまうかも・・・。でも、働きが期待外れだと、受け入れたほうも困ってしまう。
「ウチの息子を、よくもコキ使ってくれたな!」
――土木業の人事担当です。昨年、取引先の社長から、当社の専務宛に
「ウチの息子をなんとか御社に入れてもらえないだろうか」と依頼があり、断れずに引き受けることになりました。形式的に人事で面接をしたものの、職歴もアルバイトばかりで、正社員で入った会社を3ヶ月で退職したばかり。なのに、面談中から「僕は得意先の息子だぞ!」という尊大な態度が表れていました。
結局、専務の指示で本社の営業部門に配属になり、現場を知るための現場研修に赴くことになりました。そこで道路工事の現場に派遣したところ、初日が終わったころ、現場監督から激怒の電話が入りました。
「こんど研修に来た若いヤツ、全く使えねえじゃないか。注意すると舌打ちしてにらんでくるし。何でこんなヤツを採ったんだ!」専務からは「縁故入社は周囲に知られないように」と指示を受けているので、今のところ人事以外は事実を知りません。平謝りをしてその場を収めましたが、よほど叱られたのか、翌日から息子は出社しなくなりました。
その代わりに、親である社長が文句を言いに来ました。
「ウチの息子を、よくもコキ使ってくれたな。何も知らない新人を、頭ごなしに怒鳴ったそうじゃないか。息子は気分が悪くなったと言っている。どうしてくれるんだ!」その場は話を聞いて帰ってもらいましたが、1週間後に息子から「うつ病」と書かれた診断書が送られてきました。「休職させて下さい」という手紙も同封されていました。
私は「親の会社で雇ってもらえばよかったのに!」と心の中で叫んでいましたが、専務からは「だから慎重にしろと言ったのに」と叱られるし、挟み撃ちになっている私は、今後どうすればいいのでしょうか――
臨床心理士・尾崎健一の視点
「基本は規則どおりの対応。良くも悪くも特別扱いしない」
縁故入社の中にも、しっかり仕事をしている人たちもたくさんいますが、そうでない場合もあります。そのとき、ビジネス的な判断を優先して特別扱いをしすぎれば、周囲のやる気を損なってしまいます。バランスを見ながら、普通の社員と同じ対応とすることも必要です。このケースでは、まずはルールどおり休職の手続きを取り、期間満了の際には退職となることを、あらかじめ専務に伝えておいた方がいいでしょう。あとは専務の判断次第です。
また、今回はいきなり休職ということですが、対応に慎重を要する人の育成については、日々の指導履歴を具体的に記録して残しておくことも、トラブル回避・解決のためには有用です。専務や取引先の社長に「会社としては、息子さんをここまで指導してきましたが、改善されませんでした」と示すためです。このような対策は、部長や部門長などしかるべきレベルの人と話し合って決めて、逐次報告しておかないと、担当者が責任を取らされるおそれがありますので注意が必要です。
社会保険労務士・野崎大輔の視点
「縁故採用は慎重に。雇った会社の責任は重い」
今回のケースでは、問題を起こした息子が「使えない」のも問題ですが、責任は採用を了承してしまった会社にあります。縁故であっても、形式的な面接しか行わず、十分に適性を見極めていないのは失敗ですし、適性がないと分かった場合には、上司に報告して採用を取りやめてもらわなければいけません。このような「原則」を守らなければ、会社は成り立ちません。それでも採用するときには、相当な覚悟が要ります。配置にも細心の注意が必要でしょうし、教育にも配慮しなければなりません。取引先の子息であれば、トラブルが原因で会社の業績が悪化するかもしれません。万一のことがあった場合の対処について、あらかじめ内部で相談しておくべきです。
ただ、現場監督の指導にまったく問題がなかったかどうかについては、確認しておく必要があるでしょう。何も知らない若者を現場に放り込んで「使えねえ!」と怒鳴られても、息子さん本人としては(いくら能力がないといっても)戸惑うのは当然で、パワハラと感じているかもしれません。
(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。