ある企業で営業マンをしているAさんは、ケータイを持ちはじめて15年ほどになります。
Aさんによれば、この15年ほどでケータイの使い方もずいぶん変わったとか。
パソコン、ファクス、固定電話、ケータイで追い立てられる
「いま思えば、最初の頃は緊急の連絡に使うという意識が、今よりも強かったですね。メールもなく、電波の届く範囲もまだ限られていましたし、電池の保ちも悪かったですし」
ケータイでの連絡や通話は「手短に」というのが暗黙の了解としてあった、といいます。
では、現在ではどうなのでしょう?
「社内でも、パソコンの前にケータイ片手に座って、送られてきたメールやファクスを見ながら、会社の固定電話にかかってきた連絡に『かけ直すから』と筆談で答えてる、なんて珍しくない。外回りの最中でも、ケータイで商談しながら移動することは多いですよ」
そんななかでAさんは、ケータイが手軽に使われすぎている、と思うことも少なくないそうです。
「緊急時に使うもの、という意識が残ってるからですかねぇ」
Aさんが抱く違和感とは……。
「たとえば、メールをパソコンに送ったから見ておいてくれ、というもの。メールを送ったら確認の電話をするというのは、ビジネスマナーの基本になりつつありますが、二度手間のようでおかしく感じますね。
急ぎのことならメールではなく、この通話で話せばいい。急ぎでないのなら、社に帰ってメールチェックするのは基本動作なので、いちいち伝えなくても構わない気がする。
メールが届くかどうか信用できないのなら、ファクスを送ればいいと思うんです。ファクスは、たいていの会社で定期的に事務の社員がチェックしてますからね」
「時間のあるときにオフィスに来て」で済むのでは
こうした状態が高じると、メールをチェックしながら、メールが届いた確認の電話をケータイで受けつつ、ケータイが話し中だった別のクライアントが会社の固定電話に連絡をしてきて、デスクの前で千手観音のようになってしまうというわけです。
また、いつでもどこでも捕捉できるという安心感のようなものから、安易にケータイに連絡をすることで、「歩きながら長時間の商談」となってしまうのではないかとも感じるそうです。
「街なかでも、ケータイで大きな声を出して商談をしている人は珍しくないですよね。何もケータイで込み入った話をしなくても、対面して話せばいいのにと思います。
ケータイは、『込み入った話がしたいから、時間のあるときにオフィスに来てくれ』という連絡をするためのものじゃないんですかねぇ、本来」
そう言って、Aさんは首をひねるのでした。
井上トシユキ