新書ブームのなかで、作家や評論家だけでなく、スポーツ選手やモデルも新書を著す時代となった。『不動心』(新潮新書)の松井秀喜や『現役力』(PHP新書)の工藤公康など野球選手が目立つが、サッカー選手も負けていない。W杯を目指す日本代表の中心メンバー・遠藤保仁は2009年2月に、『自然体』(小学館101新書)を世に出した。そのなかで、岡田ジャパンの強さの秘密を次のように述べている。
「チームとしての完成度は、ドイツW杯の時よりもはるかに高い」
遠藤は「気持ちは熱く、プレーは冷静に」がプロの流儀だという
――岡田監督は、当初オシムさんの流れを汲む選手を重視していたが、08年3月26日、3次予選アウェイでバーレーンに負けた以降は、自分のサッカーを体現してくれる選手を中心に選んでいる。そのせいか、「華がない」とか、いろんなことが言われているけど、別にサッカーは人気選手ランキングで試合するわけじゃないからね。
たしかに06年ドイツW杯の時のメンバーと比較すると、選手個々の能力は低いかもしれない。全体的におとなしいし、個性派ではない。
でも俺は、チームとしての完成度は、今のチームの方がはるかにあると思っている。選手は監督のコンセプトを理解し、自分のプレーを100%発揮しようとひたむきにプレーしている。誰か1人に依存するのではなく、一人一人が「自分のチームだ」という意識がすごく強い。文句を言う選手もいないし、チームとして、すごくまとまっている。この点は、俺が経験してきたトルシエ、ジーコ、オシムの中でもズバ抜けている。
08年11月のアウェイで3-0で勝ったカタール戦も良かったけど、俺はこのチームは「強いな」って思う。少なくともドイツW杯の時のチームよりは強い。「面白くない」とか批判する人もいるけど、それは自信を持って言える。
サッカーは、いい選手を11人集めたから勝てるという単純なスポーツではない。・・・才能や能力も大事だが、それ以上にお互いを補完し合い、チームのためにという気持ちでプレーできるかどうかが重要になる。岡田監督は、その舵取りがうまい。選手とよくコミュニケーションを取ってくれるし、説明してくれるから選手も信頼して、その船に乗って力を発揮することに専念している。
選手のモチベーションを上げるのも非常にうまい。・・・選手をその気にさせて、盛り上げる言葉を持っている。W杯の予選の恐さを知っているし、通訳も必要ないから言葉が胸にダイレクトに響く。そうした環境作りの点、そして選手の意識からも今のチームの強さを感じる。
俺はこのチームなら、間違いなく南アフリカに行けると思う――
(遠藤保仁『自然体』小学館101新書、148~150頁より)
(会社ウォッチ編集部Kのひとこと)
中村俊輔とともに岡田ジャパンの中盤を支える遠藤は、本書のタイトルどおり、いつも「自然体」で淡々とプレーすることで知られる。「試合で感情的になってもなんの得にもならない」とクールに徹する彼が、「パスは命」というサッカー哲学や波瀾万丈のサッカー人生について、やはり淡々と語っているのが面白い。その合理的な考え方は、われわれビジネスパーソンにとっても参考になるだろう。
ちなみに、紹介した「間違いなく南アフリカに行けると思う」という言葉は、W杯最終予選の山場となったオーストラリア戦(2月11日)とバーレーン戦(3月28日)の前に記されたもの。つまり、正念場を迎える直前に発せられたものである。もしかしたら、悲願達成にむけて自分を鼓舞する意味もあったのかもしれない。