「100年に一度の危機」に際して、トヨタが創業家を経営トップに復活させるという。実は、創業家復活というのは、危機に際してのとても有効な対策の一つだ。求められているものは、一言でいえば"改革実行力"である。
創業家出身の社長には、内部昇格のサラリーマン社長にはない2つの強みがある。
まず、なんといっても押しが強い点があげられる。どんなに優秀なサラリーマン経営者であっても、普通は自分の先輩の首を切れないし、出身事業部のリストラなどは躊躇する。やろうと決意しても、引き上げてくれた先輩に「まあまあ、ワシの顔に免じて」なんて毎日やってこられれば、よほどの変人でもない限りはやれない。
この点、創業家出身者は年功序列とは違う論理で昇格してきたため、年上だろうが元上司だろうが、引導を渡すべき時にはそうする。人事制度改革などで、大手より中小企業の中に先進的な企業が見られるのも、同じ理由だ。
次に、ゴーイングコンサーンへのインセンティブが強い点があげられる。
サラリーマン社長は、年功序列の最後のご褒美として「数年間の社長職」に就いているという人が多いので、数年のスパンでしかモノを考えない傾向が強い。たとえば「自分の任期中はリストラはやらない」という経営者はまさにこれだ。良く言えば家族的経営だが、悪く言えば爆弾リレーしているだけ。こういう経営者が引退した後は、たいてい大赤字で大リストラが待っている。
これに対し、創業家は今でもちょこっとは株を持っているケースが多いから、もう少し長い目で経営を考えることになる。つまりここでも、うつべき手はうつべき時にうつということだ。
ソニーとトヨタの意外な共通点
ただし、長所と短所は常に表裏一体だ。アホなぼんぼんが継いでしまうと、上記メリットはすべてデメリットに一変することになる。要するに、安定期には前例踏襲型のサラリーマン社長が向いているが、変革期には一点突破型の破壊者が相応しいということだ。
では、"創業家"という御神体を持たない企業はどうするか。ソニーのようにしがらみの無い人材をスカウトしてきて神輿にのせるか。それとも日立のように、蔵の奥から大ベテラン(69歳)を引っ張り出してお祭りするか。
一見真逆に見えるが、どちらも"年功序列病"を打ち消すご利益を期待されている点では同じである。
城 繁幸