麻生太郎首相から遡って20人の歴代首相経験者のうち、理系出身者は何人いるかご存知だろうか。答えは2人。中央工学校土木科を卒業した田中角栄元首相と、水産講習所(現東京海洋大学)出身の鈴木善幸元首相だけだ。日本の政界では法学部や経済学部を出た「文系」が「理系」を圧倒する構図が続いている。
その図式はマスコミも同じだ。サイエンスライターの竹内薫氏は『理系バカと文系バカ』(PHP新書)の中で、「私立文系人間」に支配されたマスコミの危うさを次のように指摘している。
テレビ局には「理系人間」がほとんどいない
・・・日本を動かす官僚や議員たちが「文系」なら、人々に大きな影響力を与えるマスコミも文系体質だ。マスコミの中でも影響力が大きいのは、やはりテレビだろう。このテレビ局に就職する人の多くは「私立文系」と言われる人たちだ。テレビ局だけではない。新聞社や出版社もそうだ。
私立文系と呼ばれる人たちのほとんどは、学生時代ひたすら文系科目だけを学び、数学や物理学、生物学などには全く触れることなく、知識だけでいえばすごく偏った状態で、大変大きな影響力のあるメディアを握っているのだ。
この偏りは危険である。
以前、私がコメンテーターをしていたニュース番組での話。一緒に番組を作り上げていくスタッフに、いわゆる理系出身者がほとんどいなかった。現場で私の科学解説を支えてくれるべき理系スタッフがゼロだったのだ。
・・・一流と言われている大学を出て、メディアを握っているのに科学知識は限りなくゼロに近い。おそらく、大学受験するために、「文系」と決めた段階で、数学や物理は「こんなものは必要ない」と、いっさい排除してしまったのだろう。
新聞社には理系出身の記者もいるのだが、日本を代表するテレビ局のニュースを担当しているスタッフに理系がほとんどいないというのは驚きだった。
・・・大きな影響力を持つテレビ局の人材が文系に偏っていると、偏った番組内容になってしまう。「文系バカ」のディレクターに科学技術が「分からない」からといって、その情報が「いらない」ことにはならない。怖い情報の選別が起きているのだ。
(竹内薫著、嵯峨野功一構成『理系バカと文系バカ』〔PHP新書 121頁~124頁〕より)
(会社ウォッチ編集者Kのひとこと)
「血液型診断や占いが気になって仕方ない」のは文系バカで、「相手が関心のないことを延々と話す」のは理系バカ――さまざまな事例を通して文系バカや理系バカの生態が語られるが、語り口が軽妙なのでサクサク読める。テレビ番組「たけしのコマ大数学科」の解説者としても知られる著者の狙いは、文系と理系の両方の要素を兼ね備えた「文理融合人間」こそ必要だと訴えること。数式が大嫌いな文系人間もこの本を読めば、数学や物理の入門書を開いてみたくなるかもしれない。