「もうっ本当にみんなびっくりなんです! ぶどうの収穫量は去年の2倍! 糖度は20度で去年より3度も上がってるんです!」
セレン社長の三輪晋のもとに興奮気味に電話してきたのは、山中湖村産業振興課の吉田健司さんだった。山中湖村が運営する観光振興公社の施設「花の都公園」では、「山中湖ワイン」という地元特産ワインのためにぶどうを栽培している。そのぶどうの収穫量と糖度が両方とも大きく上がったと喜んでいるのだった。
「進歩は常識の外にある」
富士山の麓の山中湖村花の都公園でぶどうを作る鈴木勝久くん(右)。隣は三輪とともに宮崎から訪れた農業家の小林秀一さん
山中湖村花の都公園は富士山に一番近い湖のほとり、標高1000メートルの高原にある。寒暖差の大きい気候を利用してワイン用のぶどうを作っているが、3年前から、世界的な賞を受賞した宮崎県の都農ワイナリーで「土作り」を指導している三輪のコンサルを受けている。
今年、本格的にすべてのぶどう畑に三輪の土作りを採用することにした。その成果が出て、糖度が20度にアップしたのだ。
ワイン醸造用のぶどう糖度は、国産ワインで有名な、同じ山梨の勝沼町の甲州種ぶどうは16度が基準値だ。糖度が高くなっているうえに、収穫量も増えている。大手ワインメーカーなどでは、糖度を上げるためにあえて収穫量を減らしているくらいなのに。今までの"常識"からいうと信じられないことだ。
でも、三輪は言う。
「植物生理学では常識のことが、農学では非常識とされてしまうことがある」
これまでの農学の常識のほうが間違っていることもよくあるということだ。そんな現実に対して三輪がよく口にしているのが、次の言葉。
「進歩は常識の外にある」
同じことを繰り返しても変化がないなら、一見、非常識とも思えることをしなければ進化はしない。