女性医師から治療を受けた方が男性医師に診てもらうより、死亡率が下がり、再入院する割合も低くなるという驚きの報告が米医学誌「JAMAインターナル・メディシン」(電子版)の2016年12月19日号に発表され、話題になっている。
2016年12月19~20日、米ワシントンポスト、ウォールストリートジャーナル、AFP通信など海外メディアが報道した。
女性医師の方が死亡率で4%、再入院率で5%低い
研究をまとめたのは、米ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院のチームだ。論文によると、研究チームは2011~2014年に米国の急性期病院に入院し、内科の診療を受けた65歳以上の高齢者158万3028人(入院時の平均年齢80.2歳)を対象に、担当した女性医師と男性医師の間での患者の死亡率と再入院率の違いを分析した。死亡率は入院してから30日内に死亡する割合、再入院率は退院してから30日以内に再び入院する割合だ。患者のデータは、米国の高齢者・障害者向けの公的保険「メディケア」のレセプト(医療報酬明細書)を使った。
分析の際には、女性医師と男性医師が診療する患者の重症度を同じレベルにし、また医師の「力量」も同程度にして比較するため、患者の年齢、性別、収入、主な病名、医師の年齢、出身大学、病院などを調整した。たとえば、女性医師と男性医師が違う病院に勤務する場合があるので、同じ病院で働いている者同士を比較した。
その結果、調査期間中に死亡した人は128万3621人で、女性医師が担当した場合と男性医師の場合を比較すると、女性医師の方が死亡率は約4%低かった。また、再入院した人は124万9210人で、女性医師が担当した場合と男性医師が担当した場合を比較すると、女性医師の方が再入院率は約5%低かった。これらの数字は統計学的に意味がある数字だという。
女医は「診療基準に忠実」で「患者と心で触れ合う」
ところで、米国では現在、医科系大学の卒業生の半分以上を女性が占めているのに、全医師の3分の1しか女性がいない。結婚や子育てによりキャリアを中断したり、パートタイムで勤務したりする女性医師が多いことが問題になっている。また、別の研究によると、公的な医療機関で働く男性医師と女性医師との間では、平均で8%以上の年収格差があるという。女性医師は男性医師より待遇が悪いのだ。
そこで、研究チームは、「女性医師が軽症の患者を担当させられている可能性も否定できない」として、念には念を入れ、「ホスピタリスト」(病院総合医)のデータも分析した。ホスピタリストは米国の医療制度独特の医師で、あらゆる診療科に通じている。外来患者を診ずに入院患者だけを診療する。患者の状態とは無関係に、自分の勤務シフト時間帯に入院してきた患者を必要に応じて担当する。だから、ホスピタリストのデータを調べれば、患者の重症、軽症に関係なく女性医師と男性医師を比較できるわけだ。
ホスピタリストが治療した患者だけを分析した結果でも、死亡率、再入院率ともに女性医師の方がいい数字だった。今回の結果について、研究チームのリーダー、アシッシュ・ジャハ保健政策教授は、ハーバード大学のプレスリリースの中でこう語っている。
「今回は観察研究なので因果関係は解明できませんが、女性医師と男性医師とでは診療方法に違いがある十分な証拠が得られました。過去の研究では、女性医師は男性医師に比べ、診療ガイドラインを順守する傾向が強いこと、患者との間により密接なコミュニケーションを行なっていることが明らかになっています。その違いが患者の病状の経過を良くしている可能性があります」
また、プレスリリースでは「仮に女性医師による患者へのいい結果が男性医師にも反映されると、米政府のメディケアの対象者だけでも死亡数を年間3万2000人減らすことが見込めます。これは全米の1年間の交通事故死者の数に匹敵します」という研究者のコメントを紹介している。