「おさかなくわえたドラネコ~ おいかけて~♪」「カエルのうたが~ きこえてくるよ~♪」「レリゴ~ レリゴ~♪」......。なぜか突然、頭の中で同じ音楽が繰り返され、止まらなくなって困ったことはないだろうか。
この脳内に鳴り出すジュークボックス現象、神経科学や心理学の分野では「イヤーワーム」(耳の虫)と呼ばれる。最近、ストップさせる画期的な方法が発見された。ガムをかむというウソのように簡単な方法だ。
「007」の予告編とレディ・ガガは頭に残りやすい
「イヤーワーム」は、2001年に発表された米シンシナティ大学の調査によると、98%の人が日常的によく経験している。女性の方が男性より長い時間続くことが多く、しかも不快感が大きいという。英国には、耳鳴りに悩む患者や研究者でつくる「英国耳鳴り協会」があり、同協会ではイヤーワームも耳鳴り現象の1つとしている。2013年2月、3年間もイヤーアームが続いているスーザン・ルートさんのケースが報告された。彼女は、子どもの頃に聞いた1950年代のCMソング「あのワンちゃんのお値段はいくら?」が突然頭の中で鳴り出し、止まらないのだという。彼女は、地元メディアにこう語っている。
「病院に行って様々な治療を受けましたが、改善の兆しはありません。例の曲だけでなく、『ゴッド・セイブ・ザ・クイーン』や『ハッピー・バースデイ』も最近聞こえてきます。頭の中にスイッチの切れたラジオがあるみたいです。このまま生きていくしかないとあきらめています」
彼女のケースは、医療機関から「強制的に歌が心の中で反復される幻覚症状」と診断された。
イヤーワームには、このような深刻な病気から、気がついたら数分後に聞こえなくなるケースまで様々な事例がある。英ロンドン大学が2015年に発表した研究によると、「ボーっとしている時」に突然鳴り出すことが多いようだ。若者たちに映画「007」の予告編やレディ・ガガの曲など頭に残りやすい音楽を聞かせ、4日間の研究期間中にその音楽が聞こえてきた時間帯を調査した。すると、「シャワーを浴びている時」「家事をしている時」「歩いている時」など、「認知的な負荷が少ない時」が一番多かったという。
ところで、「イヤーワーム」を止めるにはどうしたらよいのか。過去の研究では、次のことをするとよいとされる。
(1)ほかの曲を聞く。
(2)面白い小説を読むなど、別の夢中になれることに集中する。
(3)言葉の並び替えゲーム(アナグラム)をする。たとえば、「ドラえもん」→「萌えランド」、「カレーライス」→「辛いレース」などだ。
ガムをかむと「言葉」と「音」が脳内で無言のバトル
いずれも、他のことに精神を集中させるのが狙いだ。そこへ登場したのが、2015年4月に英レディング大学が発表した「ガムをかむ」という方法だ。
同大のフィル・ビーマン博士らのチームは98人の若者に、キャッチーなメロディーがウリのミュージシャンの曲をたっぷり聞かせた。パリ出身のDJ、デヴィッド・ゲッタとロス出身のロックバンドのマルーン5である。彼らの曲を聞いた直後の3分間、「曲を思い出さないようにお願いします」と頼んだ。こう頼まれると逆にほとんどの人が思い出してしまった。そこで、思い出すたびにボタンを押してもらうことにした。その際、次の3つのグループに分け、ボタンを押す動きに違いがでるかを観察した。
(1)ガムをかんでいる状態。
(2)ガムをかんでいない状態。
(3)ガムはかまないが、左右の指先を軽く打ち合わせてリズムをとる状態。
すると、ガムをかんでいた場合は、他の2つの状態に比べ、曲を思い出す頻度が明らかに低くなった。また、頭の中で曲が鳴っている時間の長さも聞いたが、ガムをかんでいる場合は、他の2つの状態に比べ、約30%減ることがわかった。 なぜ、ガムをかむとイヤーワームを止める効果があるのだろうか。ビーマン博士はこうコメントしている。
「ガムをかむという行為は、意味のない無声スピーチに極めて近い行為です。無声スピーチは、何かを黙読する時のように、言葉を音に出さずに頭の中でイメージすることです。この無声スピーチ行為が、頭の中に鳴り響く音のイメージであるメロディーを分解する作用があるのです」
つまり、ガムをかむことによって、頭の中で、言葉のイメージが音のイメージと無言の闘いを繰り広げ、音のイメージを追い払ってくれるということらしい。なんだか難しい理屈だが、ガムをかむことは単純でわかりやすい。