古くから日本の料理のだしに使われてきた昆布。「よろコブ」にひっかけて昆布巻きなどの正月の縁起物としても親しまれている。最近、昆布のうま味成分である「グルタミン酸」に大腸がんを抑える効果があることがわかった。
昆布は黒くて地味な存在だが、スゴイパワーを秘めているのだ。「海のミネラル」がたっぷりあり、疲労回復、免疫力アップ、老化防止、美肌とダイエットにまで......と、その健康効果のオンパレードは目を見張るほどだ。
昆布のうま味の懐かしさは、母乳の味だったから
実はグルタミン酸は、母乳の中に豊富にある成分で、私たちが昆布のうま味に懐かしさを覚えるのは、母乳のうま味が刷り込まれているからだ。1918年、東京帝国大学の池田菊苗博士が、昆布だしからグルタミン酸を発見、世界に発表した。それまで「5つの基本味覚」のうち「甘味」「塩味」「酸味」「苦味」の成分は判明していたが、「うま味」の成分だけが不明だった。その後、グルタミン酸は「味の素」という商品になり、世界に広まった。今日、「UMAMI」という英語が世界共通になっている。
そのグルタミン酸が、大腸がんのリスクを下げるという研究をまとめたのは、オランダのエラスムス医療センターのギルソン・ベローゾ博士らのチーム。米がん専門医学誌「Cancer」(電子版)の2016年3月15日号に論文を発表した。ベローゾ博士らは、マウスの実験でグルタミン酸が大腸がんを防ぐ効果があることがわかっていたため、人間にも効果があるかを調査することにした。
そこで、55歳以上のオランダ人男女5362人を対象に、食生活と大腸がんの発症リスクの関連を追跡調査した。対象者には、食事内容の詳細なアンケート調査を行ない、全食品の中に含まれているグルタミン酸の量を推計した。また、身長と体重を聞き取り、肥満度を示す体格指数BMIを調べた。
調査期間中に242人が大腸がんを発症した。グルタミン酸の摂取量と大腸がんの発症リスクを分析すると、次のことがわかった。
(1)グルタミン酸の摂取量が多い人ほど、大腸がんの発症リスクは低くなる。
(2)食品のタンパク質摂取量に占めるグルタミン酸の割合が1%増えるごとに、大腸がんの発症リスクは42%ずつ低下する。
(3)ただし、この効果はBMI25(標準体格)以下の人にだけみられ、BMI25超(過体重や肥満)の人は発症リスクが下がらなかった。
つまり、太目の人はダメだが、普通の体重以下の人では、グルタミン酸を多くとればとるほど大腸がんになりにくくなるわけだ。グルタミン酸は、昆布以外にチーズや緑茶、シイタケ、トマト、魚介類にも多く含まれる。ただし、後に触れるが、喜んでグルタミン酸をサプリなどで多くとろうと考えると、かえって体によくない。今回の調査は、いわゆる「観察研究」なので、なぜグルタミン酸に大腸がんの抑制効果があるのかは明らかにされていない。