2016年4月14日に発生した熊本地震では、人間と一緒に多くの犬や猫が被災した。強い余震が続いている現在、東日本大震災以降に「避難所での人とペットの共生」を求めるガイドラインもまとめられたはずだが、現実には拒否されている所が多く、犬や猫たちは飼い主とともに懸命に屋外で生き続けている。
もし、震災が起こったら、犬や猫と無事に避難するにはどうしたらよいのだろうか。
「犬猫同行の避難」が原則なのに拒否する所が多い
東日本大震災では、多くの犬や猫が避難所に入れてもらえず放置された。餓死・病死したり、野生化した大型犬が小型犬や猫を襲ったりするなど悲惨な運命に見舞われた。助けられなかった飼い主たちが負った心の傷も大きかった。
この時の反省を踏まえ、環境省は2013年6月、「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」を発表した。詳しい内容は後述するが、災害時の「ペット同行避難」を奨励している。動物愛護の観点だけでなく、放浪動物による人への危害や環境破壊を防止するためにも、ルールを作り避難所で人とペットが共生するよう地方自治体などに求めている。
しかし、今回の熊本地震では、市町村単位や個々の避難所で「ペット同行」を拒否している所が多い。動物愛護団体「ドックレスキュー熊本」は、地震で迷子になった犬猫探しのウェブサイトを開くとともに、「どうぶつたちと避難できる避難所一覧」の情報も提供しているが、その中にこんな例が書いてある。
「避難所に中々ペットを持ち込めないので、先週金曜(4月15日)に熊本県に指導をお願いしたいと伝えた。今週(4月18日)に入ったら少しは改善されるかと思ったら、八代市は逆で、全市で持ち込みを拒否していた! せめて市内の1か所でも受け入れてほしいのに」。
そして、同市が4月17日に発表した以下の公式サイトを紹介している。
「避難所内での感染所予防、衛生状態の維持、動物アレルギーの悪化を防ぐために、避難所にペットの持ち込みはできません」。
「ペット同行避難」の指導にあたるはずの熊本県庁自身が、4月18日に「被災ペット救援物資の受け入れは現在停止しています」という声明を発表したほどだ。熊本県内の犬猫の状況を心配し、全国からペットフードが送られてきているが、人間優先でペットまでは手が回らないというわけだ。
ペット連れを200人も泊めてくれる動物病院
そこで、民間団体による被災ペットの救援活動が活発化している。複数のメディアの報道によると、4月17日に避難所支援に取り組んでいるNPO法人ピース・ウィンズジャパンが熊本県益城町の総合体育館芝生広場に、ペット連れ専用の大型テントを開設した。人間が約70人宿泊でき、犬用のゲージもついている。また周辺に小型のテントがいくつか併設され、ペット連れが宿泊できる。18日以降、犬や猫を連れた人々が続々と宿泊にきているという。
4月19日付朝日新聞デジタルによると、熊本市中央区の「竜之介動物病院」では18日現在、ペットを連れた被災者が200人以上身を寄せている。徳田竜之介院長は東日本大震災後に福島県を視察、ペットを置き去りにせざるを得なかった飼い主の苦悩を知り、「いざという時」のために病院の面積を広げていた。
ところで、震災時にペットと一緒に避難することになったら、飼い主はどういうことに気をつけたらよいのだろうか。
避難所生活のために普段からしつけておきたい
前述の環境省の「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」にこう書いてある。避難所では犬や猫が嫌いな人も多いから、普段から人間の迷惑にならないよう、しつけておくことが基本だ。まず、犬の場合。
(1)「待て」「おいで」「お座り」「伏せ」などのしつけを行なっておく。
(2)ケージの中に入ることを嫌がらないように、日頃から慣らしておく。
(3)不必要に吠えないしつけをする。
(4)人やほかの動物を怖がったり、攻撃的になったりしない。
(5)決められた場所で排泄できる。
(6)狂犬病予防接種や犬フィラリア症など寄生虫の予防、駆除を行なう。
(7)不妊・去勢手術を行なう。
猫の場合はこうだ。
(1)ケージやキャリーバッグの中に入ることを嫌がらないように、日頃から慣らしておく。
(2)人やほかの動物を怖がらない。
(3)決められた場所で排泄できる。
(4)寄生虫の予防、駆除を行なう。
(5)不妊・去勢手術を行なう。
ペット用「備蓄用品」はコレだけ揃えておきたい
そして、避難所に入る以前の心構えとして、震災直後に迷子になっても困らないよう次のアドバイスもしている。まず、犬の場合。
(1)室内犬でも、普段から首輪と迷子札(飼い主の連絡先など)をつける。
(2)マイクロチップを首の皮膚の下に埋め込む。これはマイクロチップ読み取り器に当てると個体の識別番号が表示され、飼い主が特定できる。また、人に飼われていることがわかり、不幸な殺処分をまぬがれる。
(3)飼い主は、鑑札と狂犬病予防注射済み票をいつも装着する。
猫の場合はこうだ。
(1)普段から首輪と迷子札をつける。ただし、首輪は引っかかりを防止するため、力が加わると外れるタイプがいい。
(2)マイクロチップ。
また、人間と同様にすぐに持ち出せるよう避難用品をバッグに入れて用意しておきたい。まず、優先度の高い物は次のとおりだ。
ペットフードと飲料水(少なくとも5日分)、予備の首輪・リード(伸びないもの)、食器、ガムテープ(ケージの補修など多用途に使える)、飼い主の連絡先とペットの写真(行方不明時に有効。スマートフォンに画像保存も便利)。
優先度がやや低い物は次のとおりだ。
ペットシーツ、排泄物の処理道具、トイレ用品(猫の場合は使い慣れたトイレ砂)、タオル、ブラシ、おもちゃ(避難所で気を紛らわす)、洗濯ネット(猫や小型犬は中に入れて運びやすく、暴れた時に押さえやすい)。
最後に、実際に避難所までペットと一緒に、人間とペットの両方の備蓄品を持って、避難訓練をしておくことをオススメしたい。
(2016年4月22日18時50分追記)なお、本文中に「熊本県庁が、4月18日に『被災ペット救援物資の受け入れは現在停止しています』という声明を発表した」と書いていますが、熊本県庁はその後方針を変えて、4月22日に「ペット救援物資の受付を開始し、避難所、市町村、保健所等を通じて被災ペットと飼い主の方にお届けできるようにいたします」という声明を発表しました。