肥満は、心臓に悪いとか、糖尿病になるとか、数々の健康被害が明らかになっているが、記憶力まで下がることがわかった。英ケンブリッジ大学のチームが英の心理学誌「QJEP」(電子版)の2016年2月26日号に発表した。
過去にラットの実験では胴回りサイズが大きいほど学習能力を下がる報告があるが、実際に人間の実験で記憶力低下を確かめたのは初めてだ。
「エピソード記憶」の能力では15%成績悪い
研究チームは、肥満度を示す体格指数(BMI)が18~51の男女50人(18~35歳・女性72%)に協力してもらった。BMIは18.5~24.9が「標準体重」で、25以上が「肥満」だ。30以上は「高度肥満」となる。
参加者には2日間にわたって宝探しのコンピューター・ゲームを行なってもらい、「エピソード記憶」の能力をテストした。スクリーンに次々と映し出される品々を画面上の複雑な地形、たとえば「ヤシの木の生えた砂漠」のあちこちに宝を隠し、あとでどこに隠したかを思い出すゲームだ。
エピソード記憶は、品物を隠す前後の自分の思考や行動を「物語」として思い起こし隠した場所にたどりつく高度な記憶力。肥満の問題でいえば、昨晩の食事の内容と食べた量を鮮明に思い出せるかどうかに関係してくる。
テストの結果、肥満の人は標準体重以下の人に比べ、平均で15%成績が悪かった。また、BMI値が高い人ほど記憶力があいまいになる傾向がみられた。
食欲のホルモンと学習のホルモンは同じだった
なぜ、肥満になると記憶力が低下するのか。研究チームは論文の中で、「肥満の人は、『満腹ホルモン』のレプチンの分泌をコントロールできていないようだ」と指摘している。食事をしてお腹がいっぱいになると、脂肪細胞からレプチンが分泌され、「もう満腹だよ」と脳に指令が伝わり、食欲を抑える。ところが、肥満の人はレプチンの分泌がうまくいかず、いつまでも満腹感にならないため食べ過ぎてしまうのだ。
実は、このレプチンは記憶力にかかわる「学習ホルモン」でもある。マウスを迷路に入れてゴールにたどり着かせる実験では、レプチンを投与したマウスは成績が向上した。論文では、「太っている人は、さっき食べたものをはっきり記憶できないから間食が増える。そして、食べ過ぎてさらに太り、レプチンの分泌を乱して食べる量をコントロールができなくなる、という悪循環になっている」とコメントしている。