妊婦が魚を食べると「胎児の脳の発達を促進させる」という嬉しい研究とともに、食べ過ぎると「子どもが肥満になる」という悲しい研究が、2016年2月、相次いで発表された。
いったい魚は食べた方がいいのか悪いのか、迷ってしまうが、とにかくバランスよく食べることが大切なようだ。
週3~4回600グラム食べると、子どものIQが最高に
スペインの環境疫学研究センターは、約2000人の妊婦とその子どもを対象に、妊婦の魚の摂取量と子どもの認知能力の関連を調べた。妊娠中にマグロ、メカジキ、サバ、イワシ、貝類などの魚介類を週にどのくらい食べたかを聞き、出産後、子どもが14か月と5歳の時に、認知力テストと自閉症など発達障害の特性を検査するテストを実施した。
すると、妊娠中に魚を多く食べた女性の子どもは認知力テストではより高い得点を記録、発達障害も少ないことがわかった。特に週に3~4回、計600グラム食べた場合が最も子どもの成績が良くなり、IQテストのスコアが通常より2.8ポイント高くなった。また、自閉症の発生率を低下する効果もみられた。ただし、それ以上食べても効果は同じだったという。
研究チームのジョルジュ・ジュルベッツ博士は「魚の脂に含まれているドコサヘキサエン酸(DHA)が、脳の神経回路のニューロンや細胞膜の発達を促すので、胎内で脳の発育が進行している期間は効果的です。特に脂の多い大型の魚は最も効果があがります。しかし、一定量以上食べても効果は同じだし、魚には水銀が含まれているので食べ過ぎは禁物です」と語っている。
週に3回以上食べると、特に女の子が太っちゃう
一方、ギリシャのクレタ大学は、妊婦の魚の摂取量と子どもの肥満の関連を調べた。対象は、ギリシャ、ベルギー、米国など7か国の計2万6184人の母親とその6歳までの子どもたちだ。
米食品医薬品局と米環境保護局では、妊婦に毎週3回魚を食べることを推奨している。そこで、研究チームは、母親が週何回魚を食べたかを基準に子どもたちの2歳・4歳・6歳の時点での体重を測って比較した。すると、週3回以上食べた妊婦の子どもは、それ以下の子どもに比べ、肥満度を示す体格指数(BMI)が高かった。特に女の子にその傾向が顕著だったという。
また、魚を推奨量以上に食べた妊婦では、週1回以下の妊婦に比べ、子どもの2歳までの成長が早まり、4歳・6歳の時点で過体重や肥満と診断されるリスクが高まる傾向が見られた。
この結果について、専門家の間で、魚に含まれる水銀や汚染物質が肥満と関係しているのではないかという指摘があったこともあり、同大のレーダ・チャチ博士は、なぜ魚の摂取と肥満が関連あるのかは説明はせず、「汚染物質との関連は推測に過ぎず、因果関係は証明されていない。研究はまだ始まったばかりだ」と慎重にコメントしている。
日本の厚生労働省は2011年に改訂した「魚介類に含まれる水銀について」という通達の中で、「基本的に魚介類は妊婦にとって優れた栄養特性を持つ利点の多い食品ですが、水銀濃度の高いものはさけて魚食のメリットを活かすこととの両立をはかるべき」と述べている。通達の別表で、魚の種類ごとに細かく1週間ごとの摂取グラムの目安を表示しているが、全体としてどのくらい食べればよいのかわかりづらい内容だ。