「このような重大な事故で、しかるべき処罰を受けることも再発防止につながると考えるようになった」。東京・池袋の道路で乗用車が暴走した事故で、妻の松永真菜さん(31)、娘の莉子ちゃん(3)を亡くした男性は署名活動への思いを語った。
2019年8月3日、遺族の松永さん(32)は、娘の莉子ちゃんが好きだった公園で、事故当時、乗用車を運転していた旧通産省工業技術院・飯塚幸三元院長への厳罰を求める署名を募っていた。
8月2日の時点で、約5万2000筆
事故は、東京都豊島区東池袋の路上で4月19日に発生。横断歩道を渡っていた、真菜さんと莉子ちゃんが死亡。8人が重軽傷を負った。
報道によると、飯塚氏は事故直後から入院していたが、5月18日に退院。警視庁は飯塚氏が運転を誤ったとみて、自動車運転処罰法違反(過失致死傷)で書類送検する方針だという。
3日、街頭署名活動は午前中からスタート。暑い日差しの中、署名しようと訪れる人が途切れることはなかった。遺族の松永さんが署名した人と握手したり、「来て頂いてありがとうございます」とお礼を伝えたりする場面もあった。
署名活動を行ったのは、娘の莉子ちゃんが好きだった南池袋公園。事故直前の4月6日にも松永さんは、2人とともにピクニックで公園を訪れていた。松永さんは報道陣の取材に「(事故以来)最初はつらくて来られなかったんですけど、ぼくにとっては大切な思い入れの場所。やっぱり来ると、懐かしさとつらさがきて。久しぶりに公園に来ました」と語り、莉子ちゃんとの思い出を振り返った。
「芝生がそこにあるんですけど、休日になったらその上でピクニックをして、娘がこの芝生の上を走り回るんですよ。ほかにも一杯、ピクニックをする方がいるんですけど、その方々の間を縫って走って。『迷惑かけるからだめだよ』と言うんですが(娘は)走り回って。そんな姿が思い浮かぶ」
7月18日のブログ立ち上げと同時に、郵送での署名活動を始めた。街頭署名活動前日の8月2日の時点で、約5万2000筆集まったという。この数については「想定していたより多く、正直驚いた。いろいろな思いがあって、署名頂いたと思いますので、これをきっかけにご自身のハンドルを握るときや、日常を過ごされるときに少しでも、署名活動に参加したな、と思い出していただければ。事故は全部なくならないと思うんですけども、少しでも減ることにつながるのかなと」と述べた。
署名で厳罰を求めている松永さん。「これだけ大きな事件を起こしても『軽い罪』だというのは今後、例えばあおり運転や飲酒運転などにもつながっていくと思うんですね。わたしは妻と娘、大事な命を同時に失ったので、危ない運転をすると人の日常、生活、命を奪ってしまうことを、少しでも考えていただければ」と自身の考えを明かした。
朝10時前後から始まった署名活動は、昼過ぎになっても訪れる人の流れが絶えることがなかった。今日だけで約1万9000筆の署名が集まったという。
真菜さんの父「2人の尊い命まで奪った人が逮捕もされず」
この日、真菜さんの父・上原義教(よしのり)さん(61)も沖縄から駆け付けていた。上原さんは「本当に悔しい」と涙を浮かべた。
事故の前日、真菜さん、莉子さんと電話で会話した。莉子ちゃんとの思い出を、義教さんは声を詰まらせながら語った。
「莉子がテレビ電話の時、いつも恥ずかしがりやで母親そっくり。『おじいちゃん、新しい水着を買ったから沖縄で海に連れてってちょうだい』、『かき氷も食べたい』って。2人は沖縄に来る予定だった。2人がいつも来るとき、寝床も全部整えて準備をしていて。次の日にこういうことが起こったもんですから、すぐその日に飛んできた。警察署で遅くに。莉子はもう見られる状況じゃなかったんです」
真菜さんとの思い出にも、涙ながらに触れていた。
「(事故後)真菜のお友達もわたしを慰めたりするために家に来てくれて。集まってくれることはうれしかったんですけど、その中にうちの真菜がいないもんですから...。みんなの前で泣いてしまって。(事故から)何カ月もたつけど、夢を見ているような。携帯を開けたら、真菜に電話してみようかなと思った。2年前に女房を亡くしたんですよ。かなり落ち込んで、大好きな女房だったもんですから。そうしたらこの携帯もテレビ電話にするからって(娘が)買い替えてくれたんですよ。2年前に。1日越しに電話がきて。優しい子だね、とっても親思いで」
飯塚氏について、上原さんは「どうして何人もけがをさせて、2人の尊い命まで奪った人が逮捕もされず......。そういうことが本当にあっていいものなのかと思いましたね。その悔しさがもう第一です」と憤りをあらわにした。18日に沖縄で署名活動をするという。
署名活動は、8月末までは続ける予定。書類送検が終わったタイミングで、東京地検に提出する。署名用紙は、「東池袋自動車暴走死傷事故 遺族のブログ」からダウンロードできる。
(J-CASTニュース編集部 田中美知生)