教育勅語をめぐって「教材として用いることまでは否定されることではない」などと政府が閣議決定した答弁書をめぐり、メディア間の見解は分かれている。朝日新聞や毎日新聞は「戦前回帰」の懸念を指摘する一方で、産経新聞はこういった指摘を「妄想」と批判。
菅義偉官房長官の記者会見で出た教育勅語に批判的な質問について、「飛躍した追及」などと紙面で批判し、記者会見でも「教育勅語を否定させようとする質問を受けることについては、どのようにお感じか」などと他社の質問を批判するような質問をするなど、珍しい展開をたどっている。
民進議員は「教育勅語本文を学校教育で使用することを禁止」求める
問題の発端になったのは、初鹿明博衆院議員(民進党)が提出した質問主意書に対する答弁書だ。主意書では
「衆参の(編注:教育勅語の無効確認や排除に関する)決議を徹底するために、教育勅語本文を学校教育で使用することを禁止すべき」
などと質問したのに対して、政府が2017年3月31日に閣議決定した答弁書では、
「学校において教育に関する勅語をわが国の唯一の根本とするような指導を行うことは不適切」
だとしながらも、
「憲法や教育基本法等に反しないような形で教材として用いることまでは否定されることではない」
としていた。
この答弁書をめぐっては、複数のメディアから批判が相次いだ。朝日新聞は4月1日付朝刊(東京本社最終版)1面で「教材に教育勅語 否定せず 政府答弁書『憲法に反さない形で』」との記事を掲載し、2日付の社説では
「この内閣の言動や思想をあわせ考えれば、今回の閣議決定は、戦前の価値観に回帰しようとする動きの一環と見なければならない」
と主張。毎日2回開かれる菅官房長官の会見でも、
「長官ご自身は、教育勅語が戦争中に果たした役割、『天皇のために何かあったら命を捧げなさい、臣民であります』と、そういうところに関して反省はないのか」(4月3日午前、ジャパンタイムズ)
「そういった(教育勅語に盛り込まれているとされる)『親を大切に』といった話は、あえて国会で排除・失効決議されたような教育勅語を持ち出して教材にしなくても、他の話でも教材にできるような話。そこの点については、なぜ否定しないのか」(4月4日午前、共同通信)
などと答弁書を疑問視する質問が相次いだ。菅氏は、ほぼ答弁書の内容を繰り返すにとどめた。
「教育勅語を否定させようとする質問を受けることについては、どのようにお感じか」
一連の状況を批判的に報じたのが産経新聞だ。4月5日付朝刊(東京本社版)では、
「教育勅語否定 まるで言論統制」「『妄想』全開 世論あおる朝日」
と題した記事を掲載。前出の朝日社説を「まさに『妄想』全開である」と非難。東京新聞については「言及するまでもない」と切り捨てた。官房長官会見で出た質問についても、質問をした記者の社名を挙げながら
「飛躍した追及が相次いだ」
「政府による『表現』弾圧を求める質問まで飛び出した」
と非難していた。その上で、
「政府は教育勅語を教材に活用するとは言っていないし、そのつもりもない。にもかかわらず、重大事が起きたかのように騒ぐ野党やメディアの姿は異様だ。憲法19条が保障する思想・良心の自由や、言論の自由を定めた憲法21条を自ら踏みにじっているといえる」
などと野党とメディアの姿勢を疑問視した。
この記事には掲載されていないが、産経新聞記者は4月4日午後の記者会見で、
「教育勅語の取り扱いについて長官は、積極的に教育現場で活用する考えは全くない、などと説明している。しかし、そういう中で昨日、今日と連日、野党や一部メディアから教育勅語を否定させようとする質問を受けることについては、どのようにお感じか」
と質問し、間接的に他社の質問内容を批判していた。菅氏は、
「政府としては現行の憲法、さらに教育基本法に沿って適切に対応していく、こういうことに尽きるだろうと思う」
と答えるにとどめた。