政府は2017年2月28日、組織犯罪処罰法改正案を自民・公明両党に示し、両党による審査が始まった。政府は3月10日に閣議決定し、国会に提出したい考え。
今回の法案の大きな特徴は、これまで「共謀罪」としてきた呼称が、構成要件の限定などを踏まえ「テロ等準備罪」に変わった点だ。安倍晋三首相は今国会で「『共謀罪』と『テロ等準備罪』は違う」と繰り返し主張しているが、メディアの間では、見出しなどに「共謀罪」を使い続ける社と、「テロ等準備罪」に変えた社とが真っ二つという情勢になっている。
「テロ」の文言は法案中ゼロ
政府が改正のポイントとして強調するのは「テロ防止」だ。安倍首相が「テロ対策は喫緊の課題だ」と国会審議で繰り返し述べているほか、公明党の漆原良夫・中央幹事会長は、法案審査入りした党政調全体会議の中で「テロ防止の観点からこの法案がどう必要か、どう有効か、審議してほしい」と強調した。
法案では、「処罰対象が多すぎる」との反発を踏まえて構成要件を厳しくした。犯罪の実行を合意した「組織的犯罪集団」が、資金や物品の手配、場所の下見といった「準備行為をした場合」に限って処罰する。対象の犯罪は676から277へと大きく減っており、「共謀」の表現は「計画」に変わっている。
一方で、277の犯罪は「テロの実行」「薬物」「人身に関する搾取」「その他資金源」「司法妨害」の5つに分類されているが、「テロの実行」に分類されるのは110にとどまる。しかも、法案中では「テロ」という文言は使われていない。
こうした状況の中、3月1日付の全国5紙朝刊の見出しを比べると、「共謀罪」を使ったのは、
「『共謀罪』法案 自公了承へ」(朝日新聞)
「『共謀罪』成立見通せず」(毎日新聞)
「『共謀罪』原案 波乱含み」(日本経済新聞)
の3社だった。一方、「準備罪」の方は、
「『準備罪』与党審査開始」(読売新聞)
「『テロ等準備罪』法案 自公が党内議論開始」(産経新聞)
の2社が使用した。
テレビ各局のウェブサイト上の報道を見ても二分している。「共謀罪」は、
「『共謀罪』盛り込んだ改正案を与党に提出」(日本テレビ、2月28日付)
「『共謀罪』与党に提示 慎重求める公明の思惑」(テレビ朝日、同日付)
の2局。NHKなど3局は、
「『テロ等準備罪』新設法案、公明党内に慎重議論の声」(TBS、同日付)
「テロ等準備罪新設の法案 政府が原案を提示」(NHK、同日付)
「テロ等準備罪で自公が議論」(フジテレビ、3月1日付)
と「準備罪」派だった。
読売「無用な不安を煽るだけ」
「共謀罪」を使い続ける側としては、「共謀罪もテロ等準備罪も同じようなもの」という認識があるようだ。
「共謀罪」を使用した朝日新聞は3月1日付の朝刊紙面で、元東京地検公安部検事の落合洋司弁護士の「『準備行為』や『組織的犯罪集団』の要件を加えても、今までの共謀罪と大差はない」とのコメントを掲載した。
また、2月28日付テレ朝報道では、2000年以降「共謀罪」の名で3度廃案になってきた法案と比較し、「『共謀罪』の看板を掛け替えた『テロ等準備罪』の法案」と報じている。
一方、国会審議中だった2月23日付読売新聞の社説では「共謀罪と異なり、適用対象は組織的犯罪集団に限られる。罪の成立には、犯行計画に加え、資金調達など、具体的な準備行為の存在が必要となる。適用範囲がなし崩し的に拡大するかのような言説は無用な不安を煽るだけだ」と、共謀罪との違いを主張する政府に理解を示している。
2月28日付産経新聞は漆原会長へのインタビューを掲載。漆原氏は「民進党など野党の質問を聞いていると、国民の不安をいたずらにあおり、廃案になった『共謀罪』と同じじゃないかということばかり言っている。本来は、テロをどう防ぐかがメインなんですよ」と、「共謀罪と同じ」論へ反論した。