2016年10~12月期の国内総生産(GDP)速報値は、あまりパッとしないものだった。内閣府が2月13日発表したものだが、実質GDP成長率が、前期比0.2%増、年率換算では1.0%増と、4四半期連続でプラス成長を維持したが、前期よりは減速。消費低迷が続いており、海外経済の持ち直しを背景にした輸出増がプラス成長の主因で、「トランプ・リスク」も危惧されるところ。
そもそも、安倍晋三政権が目標とする「実質2%、名目3%成長」に遠く及ばないだけに、全国紙の論調も、先行き不透明感が強まっているという見方が多いようだ。
節約志向と生鮮食品値上がりで個人消費伸び悩む
項目別に実質の増減率を分析してみよう。成長に貢献した輸出は、前期比2.6%増えた。米国や中国向けの自動車のほか、スマートフォンに使われる半導体などが中国向けを中心に好調だった。次いで、海外経済の回復に後押しされて、企業の設備投資も、前期比0.9%増となり、2期ぶりにプラスだった。2016年は年初から円高が進み、投資に慎重な企業もあったが、米大統領選でトランプ氏が当選した後の円安もあって、プラスになった。
これに対し、GDPの6割を占める個人消費は前期比0.01%減と低迷。マイナスに転じるのは4期ぶりで、根強い節約志向に加え、野菜など生鮮食品の値上がりが支出抑制に拍車をかけた。冬物の衣服も振るわなかった。
このほか、公共投資は同1.8%減と2期連続減。2015年度補正予算などで投資を増やしていた効果が息切れし、前期の0.7%減よりマイナス幅は拡大した。
10~12月期の名目成長率は、前期比0.3%増(年率1.2%増)。同時に発表した2016年の年間成長率は、実質で前年比1.0%増、名目で1.3%増となり、伸び幅は前年より縮小した。
産経「景気の足取りに力強さはみられない」
こうした結果を、全国紙の社説(産経は主張)はいかに論じただろうか。
「景気の足取りに力強さはみられない。むしろ、日本経済の脆弱さの証左といえないか」と警鐘を鳴らすのは、安倍政権支持の論調が目立つ産経(2月14日)。「トランプ米政権の保護主義傾向で世界経済の不確実性が一段と高まった。ここで企業や家計が萎縮すれば、民需主導の自律的な景気回復はますます遠のこう」と指摘する。懸念材料は、やはり「トランプ・リスク」で、「日米首脳会談で、貿易や為替政策をめぐる対日批判を控えたトランプ大統領が、再び為替などへの『口先介入』を強めれば、企業の経営環境も揺らぎかねない」「北米自由貿易協定(NAFTA)が見直されると、対米輸出拠点としてメキシコに進出してきた日本企業にも多大な打撃を与えよう」と、警戒心を露わにする。
産経同様に安倍政権支持の論調を強める読売(2月18日)も、「外需頼みの成長にはリスクもある。新設する日米経済対話において、通商分野などで強硬な要求が突きつけられ、自動車などの輸出産業が影響を受ける懸念は拭えない。米側の出方を注意深く見守ることが欠かせまい」と、やはり、トランプ政権の出方を警戒する。
毎日(2月14日)はより厳しい言葉が並ぶ。「アベノミクスは消費など民間主導の持続的成長を目指してきたはずだ。輸出依存のままでは経済の好循環は見えてこない。対日貿易赤字を問題視するトランプ米大統領が理不尽な批判を強める恐れもある。外需頼みは危うく、脱却を急ぐべきだ」と、読売などと同様の危惧を述べるほか、アベノミクスそのものにも矛先を向け、「安倍政権は金融緩和に伴う円安で輸出企業の収益を高め、雇用や賃金を増やして消費を活性化させる好循環実現を掲げてきた。しかし、円安は消費回復に結びついていない。安倍晋三首相は雇用改善を強調する。だが、主に増えたのは低賃金で処遇が不安定な非正規雇用だ」などと厳しく指摘している。
日経「政府の認識に違和感はない」
これらに対し、景気の堅調さを肯定的に受け止めるのが日経(2月14日)だ。「『景気は緩やかな回復基調が続いている』(石原伸晃経済財政・再生相)という政府の認識に違和感はない」と言い切り、「けん引役は企業部門」として、輸出のほか、設備投資のプラス指摘し、「民間の在庫投資が成長率を押し下げたが、在庫調整が進展した結果ともいえる。先行きの生産も増勢を保つとの予測が多く、企業部門を下支え役とした日本経済には一定の底堅さがある」と分析する。ただ、トランプ政権の保護主義への警戒感は他紙と同様だ。
景気の先行きに関して、各紙が共通して消費底上げの重要性を説き、春闘における賃上げの必要を指摘する。「固定費上昇を避けたい事情はわかるが、各企業は消費刺激効果の高いベアに努めてもらいたい」(読売)「余力のある日本企業は攻めの投資を進めつつ、賃金や配当の形で家計にしっかりと還元してほしい」(日経)などと訴えている。
個人消費に絡んで、将来不安の解消の必要性を主張したという点でも共通している。「働き方改革で雇用や賃金の格差是正を急ぎ、消費底上げを図る必要がある。少子化対策を加速し、人口減を食い止め、消費や投資を拡大する環境整備も大事だ」(毎日)、「消費低迷は、社会保障への将来不安が一因でもある。持続可能な財政と社会保障制度の再構築という宿題も忘れてはならない」(日経)といった具合だ。
また、毎度おなじみの「お題目」の感もあるが、構造改革や技術革新、生産性向上の必要にも言及するものが多く、「新産業育成につながる規制改革を加速したい。政府は、人工知能などの活用を柱とした「第4次産業革命」への支援を着実に実施すべきだ」(読売)、「0%台とされる潜在成長率を高める規制緩和や構造改革などを加速すべきは当然である」(産経)などと書いている。
社説では取り上げていない朝日も2月14日朝刊の解説記事で、「最大のネックは、GDPの6割近くを占める個人消費の低迷だ」として、特に子育て世帯や60歳代前半の世帯で節約志向が強いと指摘。「賃金が多少上がったところで将来不安の方が大きく、中間層の消費はしばらく戻らないだろう」という、ある百貨店首脳のコメントを紹介している。